個人的な百鬼夜行シリーズ再読キャンペーン8冊目。
シリーズ各作品に登場した人物たちのサイドストーリー集。
不穏で不気味なお話が淡々と続く感じ。
むかし読んだはずだけど全く記憶に残ってない。さもありなん。

2024年1月28日

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読書状況 読み終わった [2024年1月28日]
カテゴリ 本・雑誌

 個人的な百鬼夜行シリーズ再読キャンペーン7冊目。
 そうかあ、鵼の碑は本作の変奏だったんだなあと。
 内容について記憶に残っていなかったのは、宴の支度で書いた要因以外に、記憶改竄というミステリィとしての禁じ手が全開だったからだなあ、と。ミステリィとしてのシリーズは「絡新婦の理」まで、ということなのかもしれない。
 それにしても、堂島大佐というキャラの魅力的なことよ。京極堂がシンプルな善の人ではない一方で、堂島大佐は「この世の理」においては絶対的な悪で、シンプルな敵対関係になっていないところが凄い。それにしても、織作茜を退場させてしまったのは本当に勿体ないなあ。
 このあとは陰摩羅鬼の瑕だけど、先に短編集からかな。

2024年1月19日

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読書状況 読み終わった [2024年1月19日]
カテゴリ 本・雑誌

 個人的な百鬼夜行シリーズ再読キャンペーン6冊目。
 鵼の碑読了を期に、もう一度初めから読み返そうとしたものの、どこに置いたものやら過去作が見当たらず、仕方なく近所のブックオフでも行ってみるかと思い立ち、京極夏彦コーナーに赴いたものの数が少なく、とりあえず目に付いたものを買ってきた。で、塗仏の宴まで来たところで、上下で買ってきたら中があって、仕方なく電子書籍で購入して読み終わったものの、どうもしっくり来なくて改めて確認したところ、なんと上だけ「宴の始末」だったという体たらく。いや連作短編だし繋がってない気がするのも、まあそういうもんかと思った、という言い訳。上だけ買うかとも思ったけど、確実に、ということでノベルス版を。
 さて、ということでようやく本筋の感想。塗仏の宴に関しては全くというほど記憶に残っておらず、なんでだろうと思っていたのだけど、再読して、なんとなく原因が分かった。いつもにも増して混迷で胡乱な京極節が炸裂しており、一つ一つの事件が小粒な連作短編ということもあって、余計に記憶に残りにくくなっていたのかなと。どことなくとっ散らかっていたように感じられるのは、「そういう風に」デザインされているからだと思う。ただ、重厚長大な京極文でやられると、流石に記憶は雲散霧消しちゃうのだな。
 あと、絡新婦の理の感想で書き忘れていたけど、猫目洞のお潤さんがとてもいい。気風が良く賢い姐さんキャラほんと好き。そんなお潤さんだけでなく、狂骨の夢でお気に入りだった朱美さんも登場していたのに記憶に残っていないのは、京極作品の中で多分一番好きな織作茜が最後を締めたのが大きいのだと思う。そして、このあまりにも悲劇的な結末に晒され、それも記憶からこの作品を消してしまった要因かもしれない。サブキャラクターとして、もっと登場してほしかったな……。絡新婦の理から時間を置かずに読んだので、続編としてあの結末に至るのはあまりにも哀しすぎる。
 とりあえず本書を読んで、塗仏の宴がどういうお話だったかは漠然と思い出した。「宴の始末」はノベルス版で準備済みなので、どういう結末だったか楽しみ。

2024年1月17日

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読書状況 読み終わった [2024年1月17日]
カテゴリ 本・雑誌

 個人的な百鬼夜行シリーズ再読キャンペーン5作目。
 初読時に度肝を抜かれた本作、再読でどういう感想を持つだろうと楽しみに読んで、やっぱり傑作であると改めて思った。「作品」として、日本エンタメ小説史上に残る一冊。文学賞を受賞していないのが不思議。鉄鼠の檻や狂骨の夢の読後感が霞んでしまったのは、間違いなくこの作品の影響だったのだろうなと。
 緻密に構成されたプロットと、十重二十重に張り巡らされた伏線、陰惨で「映える」凄惨な事件の数々、魅力的なキャラクター、フェミニズムと民俗学の高い次元での融合、エンタメ作品として極上すぎるほど極上と思う。
 一方で、「物語」としては、改めて読むとそこまででもないかもな、と思ったりも。「作品」としての壮大な仕掛けがあまりにも見事すぎるため、物語として肉付けされるべき構成要素が排除された感がある。たぶん、この1.5~2倍くらいの分量に膨らませることが出来るレベルのポテンシャルを秘めていると思う。あえて削ったのか、或いは単にしんどくなったのか。後者かなあ。
 次は塗仏の宴。これもあまり記憶にないので、ほぼ初読に近い感じで読める気がする。初出は絡新婦の理の2年後に出版されているから、当時は絡新婦の理から連続しての読書って感じでもなかったはずで、フレッシュに続けて読める今だからこそ感じる感想がある気がする。楽しみ。

2024年1月13日

読書状況 読み終わった [2024年1月13日]
カテゴリ 本・雑誌

 個人的な百鬼夜行シリーズ再読キャンペーン4冊目。
 シリーズ内であまり記憶に残っていない作品だったのだけど、再読して、「物語」としての記憶はあまり残っていなかったものの、「作品」としては身体に染み込んでいたことがよく分かった。この作品をきっかけに、禅というものへ傾倒しかけたのだった。「禅」そのものの衝撃があまりに大きくて、物語が霞んでしまったのかなあと今なら思う。
 あれから、禅についての知見を深めてからの再読となったので、より深くこの作品を味わえたように感じる。そして、禅が骨格となっている「物語」も、当時より印象的で面白さが増したのだろうと感じた。いやもう、抜群に面白い。途中で思わず本を置いて「面白いなあ!」と声を上げてしまった。
 再読でここまで4冊ぶっ続けに読み進むなかで、関口巽というキャラがあまりにも愚かしく描かれていて、「道具立て」としてなのかなあと思いつつ、このような人物と京極堂が長年に渡り付き合う関係性なのは流石に不自然では、と感じていたのだけど、それは違うんだなと本作で気が付いた。京極堂というのは、あまりにも「見え過ぎてしまう」人なので、関口のような「空気の読めなさ」と、一見愚かに感じさせる(実際に愚かでもあることも多い)感性に呆れながらも、だからこそ付き合い続けているのかなと。それは、庇護者としての、或いは玩具としてのそれではなくて、「いろいろなものが見えすぎてしまう」からこそ、「その時」は苛立つのかもしれないけれど、むしろ京極堂の方こそが、関口への想いが強いのかなと感じた。それはきっと、榎木津も同じなのかもしれない。根本的に善性の人であることは間違いないし。
 次はいよいよ絡新婦の理。稀代の傑作という印象と大まかな内容は覚えているものの、細部はやっぱり忘れているので、再読が本当に楽しみ。

2024年1月12日

読書状況 読み終わった [2024年1月12日]
カテゴリ 本・雑誌

 個人的な百鬼夜行シリーズ再読キャンペーン3冊目。
 初読のときの感じを読了後に出して、ああこんなだったなあ、と。姑獲鳥の夏、魍魎の匣、絡新婦の理に比べて、狂骨の夢と鉄鼠の檻は、印象が薄い。再読して、エログロな悪趣味度で言えば魍魎の匣にも負けずとも劣らないと思うのだけど、だから二番煎じ感があって、ちょっと興が削がれたのかな。物語としてのまとまりも、前2作に比べると一歩劣る感じがあるのかも。
 ただ、歳を取ってからの再読で、初読のときには(おそらく)気付かなかった本作の深みというか、面白味みたいなものが分かった気がする。歴史の重みすらも「憑き物」として落としてしまう京極堂の凄みとか。
 鉄鼠の檻は次に再読するのでどういう感覚を覚えるか楽しみ。

2024年1月10日

  •  個人的な百鬼夜行シリーズ再読キャンペーン3冊目。
     初読のときの感じを読了後に出して、ああこんなだったなあ、と。姑獲鳥の夏、魍魎の匣、絡新婦の理に比べて、狂骨の夢と鉄鼠の檻は、印象が薄い。再読して、エログロな悪趣味度で言えば魍魎の匣にも負けずとも劣らないと思うのだけど、だから二番煎じ感があって、ちょっと興が削がれたのかな。物語としてのまとまりも、前2作に比べると一歩劣る感じがあるのかも。
     ただ、歳を取ってからの再読で、初読のときには(おそらく)気付かなかった本作の深みというか、面白味みたいなものが分かった気がする。歴史の重みすらも「憑き物」として落としてしまう京極堂の凄みとか。
     鉄鼠の檻は次に再読するのでどういう感覚を覚えるか楽しみ。

    再読了日:2024年1月10日

読書状況 読み終わった [2024年1月10日]
カテゴリ 本・雑誌

個人的な百鬼夜行シリーズ再読キャンペーン2冊め。
 いやあ悪趣味!悪趣味極まりない!
 でも、このグロテスクさが、京極夏彦という作家を押しも押されぬ大作家へと押し上げたんだろうなあと思う。桜玉吉なんかも完全に憑かれて、作品で「ほう」を出しちゃった(しかもレギュラー)くらいだから。多感な時期にこの作品に出会ってしまったことで、自分は大きな影響を受けたのは間違いないだろうと思う。いろんな意味で凄すぎる作品。

2024年1月9日

  •  個人的な百鬼夜行シリーズ再読キャンペーン2冊め。
     いやあ悪趣味!悪趣味極まりない!
     でも、このグロテスクさが、京極夏彦という作家を押しも押されぬ大作家へと押し上げたんだろうなあと思う。桜玉吉なんかも完全に憑かれて、作品で「ほう」を出しちゃった(しかもレギュラー)くらいだから。多感な時期にこの作品に出会ってしまったことで、自分は大きな影響を受けたのは間違いないだろうと思う。いろんな意味で凄すぎる作品。

    再読了日:2024年1月9日

読書状況 読み終わった [2024年1月9日]
カテゴリ 本・雑誌

 「鵼の碑」読了を機に、改めて初めから再読中。
 記念すべき第1作。やはり名作。
 読んだのが遠い昔なので細部は全く覚えておらず、どんな話だったかなあと思いながら読み進む。読んでいてつくづく思ったのが、本当に文章が巧い作家だなあということ。現時点で、自分にとって日本一文章が巧い作家は「図書館の魔女」の高田大介なのだけど、京極夏彦はその文章に近い。なんというか、「文章だけで勝負できる作家」だと思う。と言っても高田大介の文章とは似ておらず、物語世界を文章で組み立てていく、と書くと、そりゃそうだろって話なんだけど、文体とか構成とか語り口とか、そういった「文章」そのものが、この読んでいて目眩を感じるような、妖しく幻惑される物語世界を生み出している、といっても過言じゃないと思う。これだけの物量を一気に読ませる筆力は、やはり只者じゃない。
 なお、高田大介の文章については氏の作品感想で書いてるので割愛。
 筋立てや蘊蓄についても流石の一言。見事なキャラ立てと驚天動地なクライマックス。トリックは清涼院流水みが無きにしもあらずで、そんなのあり?って感じではあるけれども、まあ、そこが持ち味の作品ではないからね。再読して、改めて面白い作品だったと噛み締めました。

2024年1月7日

読書状況 読み終わった [2024年1月7日]
カテゴリ 本・雑誌

 発売当日に購入したものの、なかなか読めずに積ん読化してしまっていたものを、年末年始の帰省中に一気読み。
 久しぶりの京極夏彦なので、過去作の細部が朧気で、何とかの事件、みたいなワードが出てきても、それはあれか?みたいなあやふやさのままで読み進めました。幸いなことに登場人物の人となりや過去作の大枠までは忘れていなかったので、これこれ、と思いつつ(にしても、関口はここまでポンコツだったっけ……)。
 複数の視点、複数の事件が入り乱れつつの展開で、それらが徐々に徐々に収束していく展開は流石の一言。じわじわと輪が狭まっていくかのようなゾクゾク感。半分を過ぎたくらいで概ねの予測は付いたものの、物語の着地はさっぱり読めず、どういう展開になるんだろうと思っていたら、なんとそう終わらせるのかという解決編。いやあ、この展開はさすがに想像してなかった。
 「結局のところ何もありませんでした」という結末に、ここまで満足を感じさせるのは凄すぎ。あっちにふらふら、こっちにふわふわ、という酩酊感のような構成は、さすが京極夏彦と感じさせてくれました。この長大なボリュームを費やすことで、まさに「鵼」を文章で浮かび上がらせた、という感じ。
 とりあえず、過去作を初めから再読していこうと思います。

2024年1月2日

読書状況 読み終わった [2024年1月2日]
カテゴリ 本・雑誌

 確か、15歳か16歳くらいだったと思う。高専に入学して、なにか本を読みたいと寮の近くにあった小さな書店に入り、鮮烈な緑と赤の表紙で話題だった「ノルウェイの森」の文庫を見つけ、購入して読んだのが、自分の村上春樹作品との出会いだと記憶している。
 小学校高学年の時に読書の虜となり、図書館なんてない過疎地の片田舎だったので、公民館にあった小さな図書室の本を片っ端から読み耽った。中学でも、小さな図書室の本を片っ端から読んだ。児童文学やジュブナイル、コバルト作品なんかが多く、あとはいわゆる名作シリーズ。漱石や太宰、ヘミングウェイやドフトエフスキーなどなど。いわゆる名作シリーズは、ちゃんと理解して読んでいたわけではなかったはず。ただ「文章を読む」という行為自体に快楽を感じていたと思う。村上春樹作品に出会う直前は、群ようこの「鞄に本だけつめこんで」というタイトルに撃ち抜かれて読み、群ようこ作品、そこから椎名誠作品にハマっていた。
 そんなときに、ふと気まぐれに読んだ村上春樹作品であるノルウェイの森。まあぶっ飛んだ。多感なハイティーンのときに食らったあの衝撃は、たぶん忘れることは出来ないと思う。そして当然のように過去作を読み始め、「世界の終りと~」に出会った。
 「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」と、「ダンス・ダンス・ダンス」が、自分にとっての村上春樹作品を象徴する二作。その後も何作か村上作品は読み続けたけど、正直、この二作を超える作品は出ていない。村上春樹は長編作家ではなく、短編作家だと自分は感じている。独特の文体や世界設定で物語を走らせていくスタイルは短編でこそ輝くものだから。長編はその魅力が足枷になるというか、冗長だったりしてクドく感じてしまう。「世界の終りと~」と「ダンス~」は「文字数の多い短編」だと思ってる。

 ということで、長い前置きはおしまい。本作についての感想を。

 一言でいえば傑作であり、現時点での村上春樹作品の最高到達点だと思う。「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」と「ダンス・ダンス・ダンス」に匹敵する作品であることは間違いない。
 第一部は、「世界の終り」のリファイン。ハードボイルドワンダーランド部分を削ぎ落とし、原点である「街と、その不確かな壁」を描きなおす形で進んでいく。第二部からは、「続き」が語られていく。しかし、それはリファインではなくリアレンジと呼ぶべき形に姿を変えていく。静謐かつ穏やかに、淡々と世界が語られていく。そして第三部で、新しい終りを迎える。

 村上春樹作品の特徴は、その独特の文体でありリズムであることは論を俟たない。本作でも、その特徴は遺憾なく発揮されているのだけど、通底しているのはオフビート感かつロービート感。新境地に達したように思う。色鮮やかな世界ではなく、モノクロームな世界。原点回帰というか、長い時間をかけて螺旋の次サイクルへ戻ってきたというか。

 長い時間をかけて、著者の中で「馴染んだ」からこそ描き直すことが出来た作品であることが理屈じゃなく感じられ、本当に素晴らしい作品だった。すべてがぴったりとあるべき場所に収まり、語られるべき言葉が、最適なスピードで紡がれることで生み出された作品だと思う。

 村上春樹は、音楽を奏でる代わりに文章を書く、音楽を奏でるように文章を書く、と言ったことを度々インタビューとかで発言しているけど、本作では、その試みが完璧に決まったと思う。読後感が、小説を読んだそれではなく、ライブ終演後の感覚だった。文章でこの感覚へと誘える作家は、自分の知る限り他にいない。それだけでなく、「お話」を読んだ/観たあとの、「世界を通り抜けた感覚」もある。なんだろう、うまく言葉にすることが出来ないのだけど、文章表現の新しい形というか、新しい地平...

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2023年4月15日

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読書状況 読み終わった [2023年4月15日]
カテゴリ 本・雑誌

 このシリーズは、もはやSFという枠を超えた何かだと思う。
 神林御大の作品はどれもそうだけど、人と機械知性の関わりという形を取った哲学書のようにも思える。「ものがたり」という形を取ることでしか表現することの出来ないものがあるのだなあと実感させてくれる。
 もちろん、そういう理屈っぽい部分が本質ではなく、あくまでも主体はエンタメでありSFであるところが最高に格好いいわけですが。

 タイトルの「アグレッサーズ」は、敵部隊のように振る舞うことで戦闘をシミュレーションする役割を持った舞台のこと。
 と書くだけで、ここまで雪風の物語を追ってきた読者はどういうお話になるのか容易に想像できると思う。本作では新しいキャラクタが登場して、物語の奥行きを広げている。こういうキャラクタを生み出せるのがマジで強いなと実感させてくれる。
 本書はなかなかのボリュームではあるものの、ここから始まる新しい展開の導入部という感じかなと読後に感じた。シリーズの幕引きに向けて進んでいくのかなと感じられるけど、どうなるか本当に楽しみ。

2023年2月26日

読書状況 読み終わった [2023年2月26日]
カテゴリ 本・雑誌

 NHKの土曜ドラマが素晴らしかったので、これは原作も読まねば、ということで早速購入し、一気に読みました。読了して、ドラマ制作陣の優秀さに改めて感嘆しました。まずは、ドラマと原作との差分と言うか、いかにドラマ班が素晴らしい仕事を成し遂げたのか、という点から書いていきたいと思います。

 何より素晴らしいのは、原作をそっくりそのまま映像化するのではなく、物語を一旦解体し、再構築することによって、映像作品として最も「映える」ように作りきったことです。通常の映像化は、それがテレビドラマであればなおさら、原作を忠実に映像へと置き換えるか、印象的なシーンのみをクローズアップして切り取るかのどちらかである事がほとんどだと思います。どちらも一長一短で、特に前者は、メディアの違いを考慮せずに、ただ「物語」だけを置き換えてしまうと、往々にして焦点がぼやけがちであり、酷いときには核となるテーマそのものが壊れてしまうことすらあります。本作の映像化は、換骨奪胎の逆というか、物語の核となる部分を抽出し、「テレビドラマ」という表現に最も適した形へ作り変えた、という離れ業を成し遂げています。
 一例として、本来、セリフというのは、それを発するキャラクタと分かち難いものです。それを発するキャラクタの造形が「生きて」いないと、どんなに名言であったとしても、名言であればあるほど、その「名言」は空虚で浮ついたものになってしまいます。しかし本作の映像化では、発言するキャラクタを変えることを見事に成し遂げています。その中でも、原作では救われないまま命を絶ってしまったキャラを、テレビドラマでは救済される形へと作り変えたことは白眉という他ありません。他にも、時系列を変えたり、原作にあるシーンを複数のシーンに分割したり、といった細かい作業が多数見受けられました。なのに、物語としての本質は少しも損なわれること無く、むしろより際立った形で表現されたと感じます。特に、「どのゴッホがどのゴッホを殺したと思いますか?」という圧倒的なセリフの「出し方」。原作にもこのセリフは出てきますが、テレビドラマで阿部サダヲがこのセリフを放つシーンの素晴らしさは、ちょっと筆舌に代えがたいです。視聴時、頬を引っ叩かれたかのような衝撃を受けて思わず身震いしたのを今でも鮮明に思い返せます。これは、単なる辻褄合わせのための改変ではなく、「物語を活かす」ための改変であるからだと思います。理想的な映像化作品と呼ぶべき出来です。

 次に、物語についてです。本作は、自死に至る経緯を「復生者」という突飛な設定によって描き出そうとした意欲作だと自分は捉えました。「分人」という考え方が本作では語られます。相対する人によって異なる「自分」があり、それらが相互影響しながら「自分」というものを形作っている、という考え方だと自分は理解し、なるほどなあと腑に落ちました。そして、自死に至ってしまう人は、その多くの分人のうち、「病んでしまった自分」を、「健康な自分」が「消して」しまうことで起こってしまう、という流れです。これの例として、先に書いた「どのゴッホがどのゴッホを殺したのか?」というセリフへと繋がります。
 ドラマでは、このセリフは佐伯の吐露という形で描かれます。自分は、このシーンに本当に胸を突かれました。自分も10代後半から20代にかけて、まさにこのシーンの佐伯のような思いに囚われていた時期があったためです。「生きることの価値」「生きる意義」みたいなものが息苦しくて仕方なく、そんな自分と世間とのギャップに苦しみました。ひたすらに哲学書や宗教学の本を読み漁り、どこかにこの苦しみから解放してくれる術はないかと探しました。そして辿り着いたのが野矢茂樹著の「『論理哲学論考』を読む」で出会ったヴィトゲンシュタインであり、原始仏教の世界で...

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2022年8月1日

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読書状況 読み終わった [2022年8月1日]
カテゴリ 本・雑誌

感想は下巻で。

2022年8月1日

読書状況 読み終わった [2022年8月1日]
カテゴリ 本・雑誌

冒頭のインパクトをWebで観て、興味を覚えて買ってみた。
徹頭徹尾不条理系で、ちょっと胸焼けした。
インパクトだけ、という感じかなー。

2021年12月21日

読書状況 読み終わった [2021年12月21日]
カテゴリ 本・雑誌

 昨今、ネットでよく見かける言い回しが個人的に嫌いだった。それは「辛かったら逃げていい」「我慢しないで逃げよう」というような言い回し。
 もちろん、この発言が増えている背景には、苛烈な虐め(という名の犯罪行為)が蔓延している学校や、様々なハラスメントが横行するブラック企業などの存在が深刻な社会問題として影を落としていることは理解しているし、そういう社会で潰されてしまう人が一人でも少なくなって欲しいという気持ちもある。けれど「逃げる」という行為を、なにも知らずフォローもしない(出来ない)第三者が、匿名のネット上で発言することの無責任さと言うか、それってただ自分が気持ちよくなりたいだけの発言ちゃうんか、というのが気に食わない。それは、間違いを犯してしまった人への苛烈なバッシングといった「正義中毒」と、考え方が通底しているのではないかとも思っている。
 本書は、体質や環境に問題を抱えて卒業できなかった「落ちこぼれ」たちが、補講を通じて「自分」を取り戻していく過程を優しい筆致で丁寧に描いた作品である。
 彼女たちを優しい眼差しで厳しく指導していく理事長は、彼女たちに「逃げていい」という言葉は掛けない。彼女たちを学校に強制的な寮生活という形で「軟禁」し、彼女たちが惰性や習慣として身に付けてしまっていた様々な問題行動を、直接的間接的に矯正していく。と、それだけ書くとブラック学校じゃん、と感じてしまう向きもあるかもしれないけれど、本書を読了後、こういう学校が現実にあればいいのに、ときっと思うはず。
 今の社会に必要なのは、遠い世界の出来事にネットの上であれこれ騒ぎ立てるのではなく、自分の身の回りの物事に対して真摯に向き合う姿勢だと思う。自分の周りに困った顔をしている人がいないか?その人に自分は手を差し伸べることが出来ているか?顔も知らない誰かに「逃げていい」と空虚な言葉を投げつけるのではなく、その人達が逃げることが出来る社会になっているのか、自分はそのために何が出来ているのか、ということを考えることが大事なのではないかと思う。
 社会というのは、どこかの誰かが作っているものではなく、我々一人一人が日々の生活を営んでいく中で形作られていくもの。困っている人、追い詰められている人がいた時に、口先だけの「逃げていい」ではなく、具体的な逃げ方や逃げ先が提示できるように。そういうものが、当たり前のように社会が準備できているように。そんな意識で一人ひとりが日常を過ごしていけば、きっと社会を取り巻く空気感は変わっていく。そうであって欲しいと願う。
 物語の終盤にある理事長のスピーチに胸を打たれた。これは、著者からの渾身のメッセージに他ならないと思う。
 「未曾有の最大の時に、気象庁は言いますよね。命を守る行動をしてください、と。ここで私があなた方に伝えておきたいのも、そういうことです。もう駄目だ、耐えられないと思った時、自分の足で逃げられる力を、今のうちに育てて下さい。そして、自分の言葉で、直接『助けて』と言える人を探して下さい。我と我が身を救うための、知恵と勇気を身につけて下さい。」

2021年9月11日

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読書状況 読み終わった [2021年9月11日]
カテゴリ 本・雑誌

 いやあ凄いものを読んだなあと。活き活きと細部が描かれ、生活の匂いが行間から香り立ちそうなほど艶めかしいのに、ちょっと離れて全体を眺めようとすると、薄ぼんやりとした霞に包まれてしまう感じ。なんとも不思議な読後感。分かるけど分からない。分からないのに分かる。明晰夢な白昼夢を見ていた気分。
 うまく言葉で感想をまとめることが出来ないけど、この作品を長編としてまとめ上げた手腕の見事さに舌を巻く。くどくどと長ったらしい感じを微塵も感じさせず、読後感は短編を読んだ時のそれに近い。
 おそらく、これを映像化するのは大して難しくはないと思う。ラストだけCGでちょいちょいとやればいける。ただ、この作品の根幹とも言うべき空気感は、たぶん映像化できないと思う。まさに、小説という形態だから出来た表現。なんとも言えない居心地の悪さというか、仙台弁で言うところの「いづい」感じ。

 いやあ凄いもの読んだわ。

2021年9月3日

読書状況 読み終わった [2021年9月3日]
カテゴリ 本・雑誌

 久しぶりに新作を読んだので、過去作との繋がりがぱっと浮かんでこず……。単語レベルで見覚えのある地名や何やらはあるのだけど。とはいえ、覚えていないと厳しいかといえばそういう事は特に無かったと思う。過去作同様、上質なハイファンタジィ。
 本作はこれまでにないほど登場人物たちのキャラ立ちが素晴らしいので、これからの展開が楽しみ。

2021年9月3日

読書状況 読み終わった [2021年9月3日]
カテゴリ 本・雑誌

 ここ数年、ちゃんと本を読んでおらず、しばらく前に買い込んだ本たちも積んだまま手にも取らずに放置してた。何か理由があるわけではなく、例えばようやく地元に帰れたり、それに伴って通勤時間が激減したり、そうこうしてるうちに疫病が蔓延し始めて在宅勤務が続いたり、といった色んな要素が積み重なった結果かなと思う。まあ、その前から、若い頃に比べて本を読まなくなっちゃった所はあるのだけど。歳のせいというより、スマートフォンでのゲームとか、まあそういう諸々のあれがあれで。

 ということで、しばらく前に購入したまま積んでいた本書をふと手にとって、読み始めたら止まらなくなった。気がついたら最後まで一気読みして、満足のため息を一つ。
 昔から、ほんと初期の頃から加納朋子の大ファンなのだけど、こんなに巧かったっけと思ってしまうくらい、物語に引き込まれた。
 連作短編で紡がれていく大きな物語というのは著者の持ち味で、伏線という意味では本作は決して巧みではない部分もあったように思うのだけど、そういうギミックではないところが本当に巧いなと唸らされた。
 決して派手な作品ではないし、驚天動地といった大掛かりな仕掛けがあるわけでもない。静かに優しく滑らかに紡がれていく物語の手触りが、なんとも言えず心地いい。
 個人的には、「はるのひの、あき」が最高だった。この展開はちょっと想像してなかったし、そうくるかあと唸りつつ感動で胸が一杯になった。
 やっぱり加納作品はいいなあ、としみじみ思わせてくれました。オススメ。

 あと、解説で書かれていたエピソードを読んで思わず吹き出し、読後の感慨がどっか行きましたw

2021年8月25日

読書状況 読み終わった [2021年8月25日]
カテゴリ 本・雑誌

6を読んで買い忘れていたことに気付いたので慌てて買ってきてすぐ読んだ。
そして、このシリーズの特異さに改めて気が付いた。
このシリーズは、物語が時系列に並んでいない。
図書館の魔女で、書物は一定の向きを示している、といった感じのフレーズがあったけど、本書はそんなマツリカに対する挑戦状のようだ。
章の中の「塊」の単位では時系列に進んでいるのだけど、その「塊」が時系列には並んでおらず、まるでパズルのピースをバラバラに当て嵌めていくかのように、大きな物語の「部分」が、少しずつ、いろいろな場所から形作っていく。
そして、その「バラバラ」具体が非常に絶妙で、かなり突拍子のない飛び方をしているようでいて、実は繊細に調整された絶妙のバランスで配置されていると思う。
普通の小説なら、1巻飛ばして読んでしまったことを読み始めてすぐ気が付くと思う。たとえ、その前である2巻前の作品を読んだのが数年前の話で記憶が薄れかけていたとしても、感覚的に「飛んだ」ということは分かるはず。
しかし、本シリーズではその違和感があまりなかった。ただ、半分程度読み進めていくうちに違和感を感じ始め、読み終わったあとに、なにか足りない気がする。そして本棚に収めようとして、前巻を買っていないことに初めて気が付く。こんな経験はちょっとない。
それは、上述したように、そもそもが時系列に並べていない作品構成のためであり、パーツ配置が絶妙のバランスである証拠でもあると思う。
極めてエンタメ性の高いSF活劇であり、スクランブルのカジノのシーンで示されたような非常に高度な情報戦や駆け引きの面白さであったり、目を覆いたくなるような残虐性であったり、エンハンサーたちの斬新な特異能力と、その特異性を打ち負かすための戦略で、息をも付かせないド迫力な戦闘シーンなど、ただでさえ圧倒的な面白さなのに、文章技術としても特筆すべきものを試みているというとんでもない作品。
買い忘れたことで気付けたとも言えるので、良かった、と負け惜しみを一つ。

2021年3月21日

読書状況 読み終わった [2021年3月21日]
カテゴリ 本・雑誌

読み終わって本棚に入れようとして、あれ?ひょっとして5巻読んでない?って気が付くなど。
いや、ちょっとやっちまったなー。
確かに、読んでいて「あれ?そうだっけ?」と思うシーンもあったんだけど、たぶん自分が覚えてないだけやなと流してしまっていたっぽい。
5巻買いに行かなきゃ。

あ、それでも前提となる知識が一部足りていなかったとこもあるっぽかったですが、それでもなお、面白かったですよ。
ひりつくような頭脳戦と、エンハンサー同士のド迫力な戦闘シーンは圧巻。

2021年3月20日

読書状況 読み終わった [2021年3月20日]
カテゴリ 本・雑誌
読書状況 読み終わった [2021年3月7日]
読書状況 読み終わった [2021年3月7日]

NHKのよるドラを観て、これは原作も読まなきゃ、と思って即購入。
当初、3, 4巻は品切れだったので買えなかったのだけど、ようやく入手できたので一気読み。
ということで、現在発売されている部分についての感想を、1巻に記録しておく。

 ヨースタイン・ゴルデルの『ソフィーの世界』という作品がある。不思議の国のアリスを下敷きにしたようなメルヒェンの体で、様々な哲学を横断的に紹介するような作品。発売当時はベストセラーにもなり、話題になったことを覚えている人も多いと思う。

 自分がこの作品に出会ったのは、中学生後半のときだったように記憶してる。当時は読書の面白さに目覚めた時期で、図書室の本を片っ端から読んでいた。何が切っ掛けだったかは忘れてしまったけど、高価なハードカヴァであるこの本を読みたくて、お小遣いを貯めて買ったような記憶がある(誕生日プレゼントだったかも)。そして、この本を読んだことが切っ掛けで、自分は哲学という世界にどハマリしていくことになる。

 関係のないことを書いた理由は、本書、『ここは今から倫理です』は、『ソフィーの世界』の漫画版かつ倫理版、と言っても良いのではないか、と。倫理や哲学といった分野は、先人たちが「より良い生き方」を模索し、七転八倒しながら積み上げてきた足跡そのもの。
 時代とともに「正しさ」は変わるけれど、先人たちが積み重ねてきた「足跡」は、著作や考え方が残っている限り、いつでも参照することができる。ある時代の「正義」が誤った方向に向かい始めたとき、僕らは彼らの「足跡」を参照し、それを道標にしながら軌道を修正していくことができる。
 本作の冒頭で高柳が話している通り、「別に知らなくてもいいけれど、知っておいた方がいい」「選択の余地はあるものの、実は必修科目」なのが、哲学であり倫理だと自分も思う。なぜなら、生きることは容易ではなく、人生へ真摯に向き合えば向き合うほど難しくなっていくから。

 そんな困難な道程であっても、先人たちの「足跡」を辿ることで、いくらかでも困難さは軽減される。もちろん、先人たちが到達し得なかった現代においては彼らの足跡は付いていない。そこから先は、自分たちが道を切り開いていくしかない。しかし、過去から続く足跡を補助線として、僕たちは歩いていく方向を推測できる。

 しかし問題点は、倫理や哲学といったジャンルが難解であること。先人たちが自らの内で葛藤し、絞り出した「言葉」は異質なもので、ある種の私的言語に近い。
 また、高度な論理展開を駆使することで自らの言葉の正当性を世に示してしているため、基礎知識を身に着けていない場合は取っ掛かりすら掴めない。
 だからこそ、本書のような「入り口」を示すことは、社会的に非常に有益なものだと思う。本書を読んで興味を持った人は、放っておいても知識を広げようと動き始める。ちょうど、高柳に救われたいち子がそうしたように。

 「大きな物語」が消失して、秩序が崩壊しつつある現代だからこそ、本書のような作品が必要になっていると思う。

 また、上記のような「意義」とは別に、学園モノの作品としても非常に良く出来ていると思う。思春期ならではの悩みや痛みに真正面から向き合い、上っ面な「優しさ」で誤魔化すことなく、一緒に寄り添う姿勢は素晴らしい。
 偉人の名言ですべて解決、といった胡散臭さもなく、あくまで「道標」を示すのみに留め、解決は生徒それぞれに任せる。だから、結論が出ない回も少なくない。圧倒的に「正しい」と自分は思う。

とても素晴らしい作品だと思う。
今後も読み続けていきたい。

ちなみにドラマは来週3/13で最終回。
ドラマ版は漫画の良さを上手く引き出しつつ、映像表現で出来ることを巧みに取り入れていて、これも名作だと...

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2021年3月7日

読書状況 読み終わった [2021年3月7日]
カテゴリ 本・雑誌
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