屠殺、というものに興味をもったのはいつだったか。
品川(芝浦)のことを知ったのは何気なく写真集を手に取ったのがきっかけだったように思うし、岐阜の養老のことも知識としては知っていたし地形や社会史との関係で解釈していた、ただし実作業工程までは当然わかっていなかった。
屠殺場で働くきっかけを「偶然」と表現するのも素直だし、父親の反省に対して「会社を辞めず給料をもらい続けたおかげで親としての役目は果たした」「人生に運不運は付き物だし、信念を曲げず生きてこられただけよしとすべき」という感想もまた、考えさせられる。
「おいそれとは身に着につけられない」「技術と経験を求められる」仕事を志向し、そしてこの就職は間違った選択ではなかったと知ったというのにも共感する。
怪我もあるし、牛に蹴られるおそれもあるし、技術とメンタルの鍛錬に満ちた仕事であることもわかるし、携わっているからこそ味わえる美しい光景や体験にもまたうなづける。読んでよかった。
差別・偏見もまた否定しないものの、そういうことに拘らず付き合える仲間というのも、チームワークあっての作業ゆえのもの、かもしれないと思う。
無論、労使の関係のなかで地位向上させてきた歴史も、屠殺を考えるうえでは避けられないこと。とはいえ、日々の仕事ぶりのみによって互いを認め合い、評価あるいは証明するというのも格好良い。
そしてそのような環境に(時には自らの身体的特長も含めて)、「これぞ自分にとっての世界だ」と信じて打ち込んでいく様子もまた、尊く感じたのである。
- 感想投稿日 : 2021年5月8日
- 読了日 : 2021年5月5日
- 本棚登録日 : 2021年2月26日
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