黒い雨 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1970年6月25日発売)
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本棚登録 : 4076
感想 : 328
5

面白い話ではない。しかし、何十年経っていてもこの小説の文章を読めば、重松が見たような光景や生活を思い描けるような話になっているところがすごい。

原爆症と診断されていないのに原爆症だと噂されて結婚が遠のいてしまう姪っ子のために、証拠の日記を相手方に示そうと当時の記録を追っていく話。戦後と昭和20年8月5日〜15日までをいったりきたりする。

重松は姪っ子の縁談がどうにかうまくいかないものかとすごく気を揉んでいる。どうしてあんな噂なんか信じるのか、最近は特に可愛くなってるし良い子なのに・・と、心の中でヤキモキしてイライラして、奥さんすぐ隣の部屋にいるのに「おいシゲ子、わしの日記を出してくれ」と急に大声で呼びかける。
おっさんが突然デカい声を出す現象はこれだったのか。気持ちは分かるけどびっくりするのでやめてほしい。

痛々しい場面になる度に一回小説から離れたくなるので数ページ読んで、置いて、数ページ読んで、置いてを繰り返した。なかなか読み終わらなかった。
しかし、重松をはじめ、なんとか奮闘し続ける人たちの話が盛り込まれているので、少しずつでも読み進めたい話になっているようにも思う。

ただ、普通では考えられない死に方、怪我、内部から生き物が破壊されていく得体の知れない怖さはずっと付きまとってくる。

後半、臭かろうが姿形が変わろうが、身内としては生きてほしい、奇跡が起こってほしい、と願って捜しまわってその後も看病し続けるエピソードが、怖ろしさに怯む以上にどうにかなってくれないかと願うものなんだと逞しかった。爪の先程も悲惨さは及ばないけど、根本的な気持ちは変わらないのだと、自分の経験と重なるように思えて涙が出た。

過去に何度も読もうとして挫折していた本。多分、火傷とか虫とかグロテスクなところばっかに目がいってて何も分からず最初の方までしか読めてなかったんだと思う。やっと読み終える事ができた。確か原爆関係の本で、「いいご身分ですなぁ」と嫌味を言われるシーンがあったなと薄っすら記憶していたものもこの本だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説 ノンフィクション
感想投稿日 : 2023年4月4日
読了日 : 2023年4月4日
本棚登録日 : 2023年4月4日

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