罪の声

著者 :
  • 講談社 (2016年8月3日発売)
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感想 : 741
4

映画化という事もあり一躍有名となった本書。「グリコ・森永事件」をベースとしている物語、と 誰もが認識している事だろう。
フィクションではあるものの、日時、場所、犯人グループの脅迫 挑戦状の内容、その後の事件報道について 極力史実通りに再現されているらしい。
らしい と言うのも、当時の私は親指くわえた愛狂おしい赤ん坊だったので記憶の面影は欠片も無い。と言うか恐らく記憶中枢に侵入すらされていない。

そして当時から時は流れどむかしむかしのあるところ、年末辺りによく流れる〈 未解決事件簿 〉的な特番が放映されると必ず出てくるグリコ事件。
その度に両親が、私にお菓子禁止令を出したと、記憶に無い体罰を暴露されては複雑な顔をしていた。
と 冗談をかますくらいの過去の出来事とはいえ、記憶には残る。

さて、唐突なあらすじ投下
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平凡な日常を送る曽根俊也がある日、父の遺品であるカセットテープと黒革の手帖を見付ける。そのテープには子供の頃の自身の音声。
ノートには世間を騒がせた未解決事件に繋がるキーワード。
身内が事件に関与しているのかどうか、真実を知りたい俊也は父の親友だったスーツが良く似合うジェルトル堀田伯爵と過去を辿っていく。

並行する、ブラック社畜冴えないマン阿久津記者も真相を追う人間。彼は事件の犯人を求める「過去」への固執から、残された人間の「現在」と「未来」に心のスポットが移り変わって行く。
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白状すると、所詮面白可笑しく事件の妄想をぶちまけた野次馬根性を擽るだけの俗物作品だろう。と、中々手に取る気分になれなかった。
ーーーー否、全力猛省。_|\○_
この物語は事件の内容ではなく
未解決として一度は鎮火している状態から、身勝手な犯人達に巻き込まれた子供達のその後を物語っていた。ここにはとても良い意味で期待を裏切られた。痺れた。

小説として、登場人物の多さと内部構成の複雑さに辟易ゲージは溜まりやすそうだが
めげずに相関図でも書いて認識して欲しい。
そしてなによりこれは女性読者(特にメルヘンを患った我が同志達)に伝えたいのだが、上記冴えないマンとディスった阿久津記者を是非マークして欲しい。
私は、最後のページを迎えた時の彼の変貌遂げた逞しさに女性目線で正直クラっとした。

つまりこの作品は、
過去の社会問題 ノンフィクションとして歴史を辿るも有り、
著者 塩田武士が語る「このような人生があったかもしれない」のフィクションを心に刻むも有り。
私の心はこの二面性に完全に魅了されてしまった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本作家
感想投稿日 : 2021年9月14日
読了日 : 2021年9月14日
本棚登録日 : 2021年9月14日

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