小さなチーム、大きな仕事―37シグナルズ成功の法則 (ハヤカワ新書juice)

  • 早川書房 (2010年2月25日発売)
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大手企業では当然だと思われている、拡大路線、会議、予算管理、取締役会、広告やセールスマン。これら全てを拒絶しても、企業は成功できる。大切なのは「どのように顧客を増やし、利益を増やすか」だと著者の体験を通して説く。

著者は、2大陸に散らばった(本書執筆時点で)わずか16人の従業員で数百万人の顧客を抱える、ソフトウェア会社「37シグナルズ」の創業者と共同経営者。「ビジネスを立ち上げて、経営して、拡大する(あるいは拡大しない)」ことについて助言している。本書を大まかに要約すれば『本質を追求せよ』。納得させられるし、むしろウラヤマシイ。

徹夜も辞さない長時間勤務をこなすサラリーマン。度重なる会議。著者は両者とも“無駄”だと切り捨てる。前者のように睡眠時間を削ることは創造性の喪失につながる、後者は余計な負債を抱えることと同義だと指摘。業務や会議スケジュールなどを“できるだけ小さくする”ことこそが重要だとする。

その際、基準となるのが会社の本質。「『もしこれを手放しても、自分が売るものはまだ残っているか?』と自分自身に問いかけ」、芯の部分さえ捨てなければよいという。そして、「そうしたらその部分を最大限に引き出すべく、エネルギーをすべて注力するのだ」とする。ただ上司に言われたからやるのではなく、「なぜ行うのか」「どういった問題を解決するのか」「本当に役立つのか」「なにか価値を加えているのか」「なにか行動を変えるのか」「もっと簡単な方法はないのか」などを常に念頭に置いて業務に取り組むよう奨める。

また、適度な削減のサジ加減について、ワビサビについての著者、レナード・コーレンの本を引用している。

「『本質だけになるまで切り落とす。だが詩を取り除いてはいけない。余分なもののない、清潔な状態を保つが、不毛にしてはいけない』
『詩を残す』とはいい言い回しだ。簡潔にすぎると魂が抜け出てしまい、ロボットのようになってしまう」

これまでの『会社』の概念を一新してくれる本。起業がぐっと身近に感じられる。創造性や“美”へのこだわりを保って本質を追求。よりシンプルによりスマートに ― 。共感できる。

本書を読み終え、1年ほど前にNHKで放送されていたBump of chickenの特集を思い出した。メンバーの1人が「アーティストはよく、『武道館ライブが目標』と言うけれど、僕らは違う。好きな音楽を続けてきて、『いいぞ、いいぞ』とやっているうちにここまで来た」といった趣旨の発言していた。長期的な目標を立ててそれに向けて実行するのではなく、自分たちの核を道標として直近の課題をクリア、クリア、クリア。積み重ねるうちに、(本人はそう考えていないのだろうけど)いわゆる“成功”を成し遂げていた、ということなのだろう。

また、その歌詞は美しい。時間の経過とともに表現方法は変遷しているけれど、どの曲にも“芯”を感じる。“詩を残しながら”無駄がない。

著者やbumpのイキザマ。『小さなチーム、大きな仕事』。素敵だな、と改めて思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2010年6月2日
読了日 : 2010年6月2日
本棚登録日 : 2010年6月2日

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