輪違屋糸里 下 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋 (2007年3月9日発売)
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本棚登録 : 2060
感想 : 179
5

これは・・・。よかった・・・。壬生義士伝に引き続き嗚咽が止まらなかった。
そして手に汗握る。結末が分かっていても、それぞれの想いが絡みあったりすれ違ったりで、ページを捲る手が止まらなかった。一気に読了。

物語は、芹沢鴨暗殺事件をめぐる。
新撰組と関わりのあった女たちを中心に、それぞれの立場で、それぞれの芹沢鴨暗殺事件が描かれる。
新撰組の成り立ちや芹沢・近藤の対立についても詳しく描かれていて、読み物としても面白い。芹沢鴨の印象が少し変わるかもしれない。

浅田次郎作品、実は壬生義士伝と王妃の館しか読んだことがないのだけれど、群像劇というか、それぞれの登場人物の描き方がとても魅力的だなと思う。
当たり前のようだけど、それぞれの思いや信念があって、それはどう足掻いても変えられない場合があって、そのために人はぶつかってすれ違って、裏切って裏切られる。そのどうしようもなさを俯瞰で見ている、なんとも言えない気持ち。
そしてそれぞれの思いをよりリアルに際立たせてくれるのが、日常の描写。食事の場面や、稽古の場面。何気ない日常会話から、登場人物たちが生き生きと動き出す。リアルに見てきたとしか思えない。新撰組の時代に生きていらっしゃったのかしら・・・。

それはともかく、女性たちがそれぞれに真っ直ぐで強くて、圧倒される。
男はんのようにおなごは自由には生きられない、そんな時代に、強く生きた女性たち。


まずはタイトルロールにもなっている、京都・島原の置屋、「輪違屋」の芸妓、糸里。正直初めの方はあまり出番ないなと思っていたけど、ラスト圧巻だった。
土方歳三といい仲、なはずなのに土方の思いは一つも見えてこない。そんな土方にちゃんと「踏み絵を踏ませてあげた」糸里が強くてかっこよくて。
平間重助とのシーンはもう、おいとぉぉぉぉ、ってなる。重助との間にもちゃんと情が生まれていたことが最後にわかるけど、余計に辛い。
「娘さんのとこへ、お帰りやす。わてを抱いてくれはったよりももっとやさしう、娘さんと抱いとくりゃす」
糸里を通して見る土方歳三の姿。掴みどころがなく、「あの人だけはやめておいた方がいい」とさんざ言われた土方が、おいとに本音を語るシーン。
「見えるか、おいと。俺ァ、本物の侍になるんだ。」
でもやっぱりラストが強すぎる。ここがおなごの正念場や。


吉栄はひたすらに辛かったな。ただ愛する人と幸せになりたかっただけ。
でも強かった。
愛した人が、殺されなければならない運命だと知った時、あんなに強く振る舞えるだろうか。
「せめて明日の晩は、きょうのような月夜になってほしいわ。ほしたらもう一晩、夢を見さしてもらえるやんか。おとうちゃんとおまえと三人で、仲良う暮らす夢や。」
そして糸里の愛が深すぎて泣く。きっちゃん、あんただけは幸せにならなあかん。


新撰組の屯所、前川のお勝と、八木家のおまさ。
家を守るものとして、隊士たちの母親として、複雑な思いややりきれない思いも多々あったと思う。それでも、ただ流されるのではなく、何が起きているのかを知り、自分が何をするべきかを考え、時にはちゃんと意見もする。自分が守るべきものを守るため。


でもなんと言ってもお梅、かもしれない。
西陣の太物問屋、菱屋の四代目、太兵衛の妾として江戸からやってきたお梅。店の切り盛りどころか台所の指図もできない妻を追い出し、使用人たちに疎まれながらも、傾きかけた菱屋をその商才で持ち直していく。そして掛け取りに出かけた先の壬生で、芹沢鴨に手込めにされる。
彼女が一番強かで、人間らしくて、魅力的だなと思った。
莫連で、気が強くて、でも優しくて。くるくると表情を変えながらもまっすぐに生きるお梅が傷つけられるのは見ていられなかった。
「あたしが何をした。神さんも仏さんも、文句があったら言うがいい。女は乞食じゃあない。」
そんなお梅が最後に神さん仏さんにかける最後の願い。
「金も夢も、人の情けも、何もいらない。やさしいこの男と一緒に、あたしを毀しておくんなさい。」
あーーーー。


あと、暗殺前の最後の最後に沖田総司目線の章が入るの、演出として本当にニクすぎて辛かった。
そりゃ怖いよね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: *国内小説*
感想投稿日 : 2021年7月3日
読了日 : 2021年6月30日
本棚登録日 : 2021年6月30日

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