そもそも私はミステリーというジャンルのファンではない。だからミステリーとしての構成がどうこうということは言えない。でもなんだか近藤史恵がずっと以前から好きだ。
かつて、デビュー作「凍える島」や「ガーデン」の、身をえぐるような陰鬱なミステリーによって近藤史恵を印象づけられた。だからこの人の真骨頂は、今でも箱庭的な舞台で展開する、極限の心理描写だと私は思っている。
面積の上ではハワイ諸島最大といってもオアフ島に比べれば田舎、ペーパードライバーには移動困難なハワイ島という「島」がまず密室で、たった6室、リピーターなし、3ヶ月までという特殊な条件付けがなされたホテル。わくわくする舞台立てだ。
昔から知ってます風なことを書いてきたが、実を言えば近藤史恵を読むのはひさしぶりだ。
この作家は、絶望的な状況を鮮明に描き出す、乾いた筆致が魅力だと思っていた。心理描写こそ、と思っていた。
だがホテル・ピーベリーを読むと、和美さんの作る食事や折々に出てくるコーヒーも(味覚・嗅覚)、ハワイ島の風景(視覚)も、静けさ(聴覚)も、めまぐるしい気候や情事(触覚)も、この人はこんなに具体的に魅力的に世界を描く素晴らしい力量の作家だったのだと改めて気づいた。
私にとっての近藤史恵を、その筆の運びをほどよい長さで堪能できた、という意味で大満足ではあったが、主人公の昔と今のそれぞれの恋について冷静に考えると、嫌悪を催す人もいそうなので、人に勧めることはしないと思う。
お気楽な観光で良い、ハワイに行きたい!
- 感想投稿日 : 2015年9月29日
- 読了日 : 2015年9月29日
- 本棚登録日 : 2015年9月29日
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