親鸞 (上)

著者 :
  • 講談社 (2009年12月25日発売)
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 範宴、綽空、善信、親鸞と、心が生まれ変わるたびに名を変えた浄土真宗の祖親鸞の物語だ。この上下2巻では、名前を親鸞に変えて、越後へ追放されるまでを描く。
 久しぶりに、面白く、また勉強になる本に出会えたという感じで、これは、宮城谷昌光や高橋克彦などの著者に出会った感じと似ている。
 なむあみだぶつ、とは、南無、すなわち帰命する、ということ。帰命するとは、全てを捨てて仏の前にひれふすこと。なにもかも、全てお任せして信じ、決して迷わない。その誓いを南無、という。そして、あみだぶつ、とは、阿弥陀如来という仏様をお呼びする声。阿弥陀様は、自分の名を呼び、仏に帰命する全ての人々を、わが子のように分け隔てなく救い、浄土へ迎えようと固く誓われた仏様だ。身分の隔てもなく、男女の区別も無く、穢れた人も、罪深き人も、あらゆる人々を抱きしめて浄土へ導いて下さる、そのような仏様こそが阿弥陀仏だ。その慈悲におすがりする声が、念仏であり、この念仏一つで救われる。はかなきこの命が尽きるとき、誰もが必ず浄土に生まれ変わることができる。そういう教えだ。仏の教えとは、お釈迦様の教えのことで、お釈迦様が説かれた一番大切なことは、人はみな平等であると言うこと。しかし、この世に平等に生きることは難しい。だが、阿弥陀仏という仏様は、全ての人々をみな平等に救うと言う誓いを立てられた唯一の仏様だ。修行や学問や身分、善行などに関係なく、今生きている者を一人残らず救い、浄土に迎えようと言う仏様だ。生きるためには殺生もしなければならぬ人も、恥多き生業の人も、貧しき故に悪を犯す人も、一人残らず平等に救う。
 目に見えずとも、この世界にはたくさんの仏様がいる。智恵に優れた仏様、病を治す仏様、宇宙天地を司る仏様。しかし、それらの数々の仏様の中で、阿弥陀仏という仏様は、この世に生きる哀れな者たちを決して見捨てない、と固く誓われた仏様だ。哀れな者たちを見捨てない、おろかな人々を一人残らず救う、罪多き我らを必ず抱きとめて下さる。それが阿弥陀仏様だ。
 一人残らず救うという阿弥陀仏様の誓いを本願と言う。その本願を信じて、思わず体の奥からもれ出る声が念仏というもの。声に出さねば人には届かない。ましてみ仏には。ああ、阿弥陀仏様、あなたさまのお誓いを信じます、そして一筋にお任せします、と誓う言葉が念仏であり、なむあみだぶつ、というわけだ。
 ただ、親鸞の師である法然の説く教えは、当時は非常に危ういものだった。真実を語れば、必ず周囲の古い世界と摩擦を引き起こす。出来上がった体制や権威は、そんな新しい考え方や言動に不安を覚える。法然の説く教えは、これまでの仏法の権威を否定する教えである。当時の仏法は、異国から伝わってくる教えや知識を必死で取り入れ、つけくわえ、つけくわえして大きく豊かに花開いたものだ。ところが法然上人は、それらの教えや修行や教説を一つ一つ捨てていこうとしている。知識も学問も難行苦行も、加持祈祷も、女人の穢れも、十悪五逆の悪の報いも、物忌みも戒律もなにも何も捨て去って(これを選択・せんちゃくという)、あとに残るただ一つのものが念仏であると説く。ただ念仏すればよい、という専修念仏(せんじゅねんぶつ)、易行念仏(いぎょうねんぶつ)という教えだ。これまでそのような厳しい道に踏み込んだ僧侶はいなかった。だから法然は非常に危うかった。
 念仏者はみな平等であり、身分や職業にとらわれることはない、仏の本願とは、悪人をまず救うということ。母親は元気な子より、病んだ子をまず抱きしめる。
 念仏して浄土に行くということは、行ったことがないので、誰もわからない。だから、ただ、師法然の言葉を信じるしかない。信じるというのは、はっきりした証拠を見せられて納得することではない。信じるのは物事ではなく、人だ。その人を信じるがゆえに、その言葉を信じる。親鸞は法然上人を信じており、その法然が教えるとおりに念仏して、浄土に迎えられるというのを信じている。そして、親鸞が法然を信じているのは、法然が親鸞を信じているということからだ。
 親鸞と言う名を名乗るのは、親鸞が都を追われるときからだ。念仏往生の教えは、大乗の道に進んだ天竺の世親菩薩(せしんぼさつ)と、浄土の思想を極めた曇鸞大師(どんらんたいし)の願につきる。我一心(がいっしん) 帰命尽十方(きみょうじんじっぽう) 無礙光如来(むげこうにょらい) 願生安楽国(がんしょうあんらくこく)。
全2巻

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本史
感想投稿日 : 2018年1月3日
読了日 : 2018年1月3日
本棚登録日 : 2018年1月3日

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