(009)夜 (百年文庫)

  • ポプラ社 (2010年10月12日発売)
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感想 : 24
3

「夜の樹」
まだ若く未熟なケイが、暗く醜く愚かで理不尽な世の中にさらされる。
生きるということも、死ぬということも、まだ理解しきれていないケイが、生きるということに必死で、苦しみや悪をもその背中にしょっている、そんな存在に出くわす瞬間の物語。
私には、そのように読めた。
バッグは勝手に手にされ、レインコートをかぶされたことを意識しても、なにもできないケイ。
実に暗く危険な人生の夜を感じる。

「曲がった背中」
曲がるほど、その背中には何がのっているのか。
罪悪感か。責任感か。哀れみか。後悔か。
みんなの行くほうへ行きたがらなかった女。
彼にもその気持ちはわかったらしいが、私にもわかる。
そして、女は、確実に彼には一緒に来てほしかったのだ。
関係があらわになることを恐れるより、自分を選んでほしい。
たとえ火に襲われることになったとしても、自分とともにあることを選んでほしい。
この状況で、自分を一人にするという選択肢など、ないという姿勢を見せてほしい。
人垣を突き破って、空き地で振り返った女は、一瞬でそれらを問うたのではないか。
その夜から、ずっと夜は明けない。

「悲しいホルン吹きたち」
少し読みにくい作品だった。
大人はみんなホルン吹きなのかもしれない。
品よくなんて、生きてられないのかもしれない。
下手くそな生き方でも、みじめで馬鹿な生き方でも。
守られた、それなりにあたたかい家庭から、一人ぼっちで放り出される不安。
それでも、自分に与えられた部屋に安らぎを見出して、日々を重ねていく。
最期の老人の言葉は、独りで歩き始めたウィルの人生への激励の言葉だ。
くだらない人生を背負った男のように見える老人が、実は人生の芯をつかんだ言葉を持っている。
そこに、この小説の深みを感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 9・文学
感想投稿日 : 2019年2月24日
読了日 : 2019年2月23日
本棚登録日 : 2019年2月23日

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