「螢」
こういう作品を読むと、つい史実と比べたくなってしまう。
しかし、作品は作品で完結した世界として受け止めて、純粋に楽しむことを、まず最初にしたほうがいいのだろう。
そのほうが、より深く作品とコミットすることができる気がする。
が、つい、ウィキペディアなどを見てしまうんだよなあ。
登勢の、弱いようでしなやかな強さは、まさに大和なでしこだ、と思わせる。
受け入れていく強さ。
川の流れのように、幸も不幸も移ろっていく。
それに抵抗するわけでなく、その川とともに生きていく登勢の姿は、実に美しい。
「吉備津の釜」
川が記憶を呼び起こし、その記憶が道を分けた。
最後の展開ですべてが繋がる。
なんか、祈祷師を信じてしまいそうだ。
運命が、言葉でない言葉で、彼に語りかけている。
行くな。
一度は這い上がれたじゃあないか。
行くな。
川を流れる菊や、祈祷師の面影は、熱にあたって狂いかけた彼の人生を、なんとか引き留めたのだ。
面白かった。
「津の国人」
川の上と下とに別れていく夫婦。
有名な古典をもとにしている。
筒井という名前も、筒井筒を思い出させる。
女の心理が丁寧に描写されている。
3年待ったと読むか、待てなかったと読むかは、人それぞれだと思う。
男が軽率であったと読むか、女の心が定まらなかったと読むか、双方致し方なしと読むか。
もとの古典を読んだ時も、いつも、なんとも割り切れない、致し方ない気持ちになってしまう。
若い女が、たった一人で男を待ち続ける苦しさは、いかほどか。
結末が古典とは異なるところが、ちょっとリアルさを増しているように思った。
- 感想投稿日 : 2019年5月12日
- 読了日 : 2019年5月13日
- 本棚登録日 : 2019年5月11日
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