風の又三郎―雪渡り・十力の金剛石 (ますむら・ひろし賢治シリーズ)

制作 : 原作:宮沢賢治 
  • 扶桑社 (1995年5月30日発売)
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本棚登録 : 168
感想 : 12
3

収録作品「風の又三郎」「雪渡り」「十力の金剛石」の中では
小学校の国語で習った「雪渡り」が一番好き。

幼い兄妹が雪の中を歩いていく時の

「キック キック トン トン」

ってリズミカルな足音を聞くと、
不思議な世界へ連れて行かれる気持ちになるし、
二人が招待された幻燈会での
狐の紺三郎氏による

「お月様はまるで真珠のお皿です。
お星さまは野原の露がキラキラ固まったようです。
さて只今から幻燈会をやります。
みなさんは瞬きやくしゃみをしないで
目をまんまろに開いて見ていて下さい。(以下略)」

なんてとびきり気の利いた開会の辞を聞くだけで胸がワクワクする。

しかも、狐の幻燈会は、
狐の子供達だけではなく、人間様の大人達にも
しかと見せてやりたいような大変ためになる内容なのだ。

幻燈会が終わって、兄妹が真っ白い雪の中を歩いて、
夢のような世界から、現実の世界へ戻る時、
上のお兄さん達が迎えに来てくれたってラストも
温かい気持ちになって私は好きだ。

この3人のお兄さん達もちょっとしか出てこないが、優しい善い子達。

狐の幻燈会は、関係者以外、12歳以上には参加資格がないため、
下の子二人しか行く事が出来ない。
しかし、だからといって、二人の子に嫉妬もせず、からかいもせず、
狐達へのお土産のお餅まで持たせて送り出してやるのだ。

きっと「あいつら、そろそろ幻燈会もお開きになって、
今頃は寒い思いをしながら歩いているだろうな。」
「風邪ひくといけないな。」「どれ、雪の中で迷うといけないから、
迎えに行ってやろうよ。」などと話しながら、
家の中をポカポカにしてから
幼い弟と妹を迎えに出発したのだろうなって思う。

「風の又三郎」は、読むと、
自分の小学生時代のエピソードを何かしら思い出すようなお話。

ちょっと変わった転校生と一緒に遊んだ時の事や、
日が暮れるまで、汗まみれになる位、
本気で友達と遊んだ事とか、
冒険が過ぎ、怖い思いをして、
迎えに来てくれた大人の胸で泣いてしまった事とか・・・。

どこかきゅんと胸がしめつけられるような思い出。
それをますむらひろし氏の描く少年猫達が思い出させてくれる。

「十力の金剛石」の存在は、本作品を通して知った。
沢山の鉱石が登場する「賢治らしい」美しさを持った作品だと感じた。

最近、少々離れていた宮沢賢治。
しかし、久々に彼の作品に触れてみて、

「彼が生み出した文章や言葉は、
まるで原石を掘り出してきて、丁寧にきゅっきゅと磨いた
宝石のようにキラキラ美しいな。」

と改めて感じた。
近い内にオリジナルを読みたいと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 漫画
感想投稿日 : 2010年5月16日
読了日 : 2010年5月16日
本棚登録日 : 2010年5月16日

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