雄気堂々(上) (新潮文庫)

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  • 新潮社 (1976年5月30日発売)
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渋沢栄一の生涯を描いた歴史小説。上巻は武州血洗島での誕生から、幕末、明治新政府での若き官吏時代に入るまで。
攘夷強硬派→一橋慶喜家臣→フランス留学→明治新政府での大隈からの協力要請

一介の農民が一橋慶喜に取り立てられる件は興味深い。慶喜の周りに開明的な側近、平岡円四郎や原市之進やがいたことはあまり知られていない。彼らが早くに暗殺されていなければ(しかも内ゲバ)、世の中も変わっていたかもしれない。
本書では、渋沢栄一だけのことでなく、幕末維新の全体の動きもよく捉えられていて頭の整理にもなる。

渋沢栄一のような偉人の生い立ちはどのようなものだったのか。
若い時から「建白魔」であり、自分の意見を発信する意欲が強かった。
フランスへの留学が、後世、偉大な実業家になるに大きな影響を与えていたことは間違いない。

(以下引用)
・井上馨が総理になろうとするときであった。明治の元勲たちの中で、井上ひとりがまだ総理になっていなかった。・・・(井上)「渋沢が大蔵大臣にならなければ、引き受けぬ」といった。元老や重臣たちは、入れ代り渋沢説得にのり出した。「きみがやれば井上も総理になれるのだから」と。
(渋沢)「わたしは実業家で通す決心です」

・(渋沢夫人)「お父さんも論語とはうまいものを見つけなさったよ。あれが聖書だったら、てんで守れっこないものね」
論語には夫人の指摘する通り、女性に対する戒めはない。

・平岡もまた、京都へ来て以来、人材登用の必要性をいっそう身にしみて感じていた。薩摩・長州・土佐など、有力諸藩を動かしているのは、いずれも、身分の低い下士上がりの若手たちである。それに比べれば、一橋家も、幕府も、人材らしい人材が居ない。・・・若くて根性があり、頭の切れる若者が、欲しい。その手はじめの一人が、栄一である。

・「天下の権、朝廷に在るべくして在らず、幕府に在り。幕府に在るべくして在らず、一橋に在り。一橋に在るべくして在らず、平岡に在り」と世間にうわさされるほどの人物で、このとき、(平岡円四郎は)四十三歳の働きざかり。

・平岡円四郎も原市之進も、一をきいて十を知る聡明なひとであった。相手の顔色を見ただけで要件がわかるといわれた。先が見えすぎ、ひとの先廻りをする。そのため、かえって、ひとにきらわれるという面もあった。

・(大隈重信が渋沢を大蔵省に招聘する際の言葉)
「新政府がやろうとしていることは、すべて知識も経験もないことばかり。何から手をつけてよいかわからぬのは、きみだけではない。誰もが、わからん。わからん者が智慧を出し合い、これから相談してやって行こうとしている。つまり、われわれみんなが八百万の神々なのだ、きみも、その神々の中の一柱として迎えた」
「知らぬからやめるというなら、みな、やめねばならぬ。やめたら、国はどうなる」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2012年3月20日
読了日 : 2012年3月20日
本棚登録日 : 2012年3月20日

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