砂の本 (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

  • 集英社 (1995年11月17日発売)
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感想 : 29
5

<砂の本>
ボルヘスの短編集。ちゃんと筋のある小説っぽいものが多いです。ボルヘス自身の解説もあります。

【他者】
ロンドンに隠遁したボルヘスと、スイスで学ぶ若きボルヘスが出会い、その出会いについていろいろ考えるお話

【ウルリーケ】
「わたしが好きか、と聞くような過ちは犯さなかった。彼女にとってはこれが初めてでも、これで最後でもないことが分かっていた。(…)『これはみな夢のようだ。しかも、ぼくは決して夢を見ない』私は言った。『魔法使いが豚小屋で眠らせてくれるまで夢を見なかった、あの王様みたいね』とウルリーケは答えた」
ボルヘス短編の中ではロマンチックなものに分類されるのかな

【会議】
地球上のあらゆる者がメンバーである会議の結成と終末とその後の話。

【人智の思い及ばぬこと】
伯父の家に住み込んだ何者か。ホラーだと思うんですが正体がよくわからなかったです。

【三十派】
図書館の隅で見つけたある宗教流派の草案からの考察。空想の草案を作り「こんな原稿が見つかったから紹介します」というのはボルヘスのよくやる手段。

【恵みの夜】
「あのわずかの数時間のうちに、わしは愛を知り、死を見たんだからな。あらゆる人間に対して、あらゆることが啓示される、あるいは、少なくとも一人の人間が知ることを許されている限りのあらゆることがな。しかしわしはたった一晩のうちにこの二つの肝心なことが啓示されたのだ。長い年月がたって、あまり何度もこの話をしたので、今はもう、真実を覚えているのか、それとも、自分の語る言葉を覚えているだけなのか、とんとわからなくなったいまとなっては、もレイラの殺されるところをみたのが、わしだろうと他人だろうと、どちらでも同じことだ」

【鏡と仮面】
王の戦勝のために死を捧げる詩人。1年ごとに削ぎ落とされて作られた詩は、人が知ってはならない美の極致へと行きついてしまった。

【疲れた男のユートピア】
遙か未来の世界を訪れた男の話。

【贈賄】
二人の男の虚栄心から起きたある出来事。

【アベリーノ・アレドンド】
完全に世間との関わりを経った男の目的は?
最初に主人公の行動を書き、最後に目的が明かされる手法は「エンマ・ツンツ」などもそうなんですが、ボルヘス流ミステリーなのか。
読者としては、謎とも思ってなかったことが最後の種明かしと同時に謎と分かるの感覚が好きです。

【砂の本】
開くたびにページの変わる永遠の本を手に入れた男の希望と絶望。

<汚辱の世界史>
悪役として名を残す男たちの研究と紹介。ボルヘス流悪党列伝。
「ある男に成りすますために、まったく本人に似せなかった詐欺師」とか、ボルヘスの好きそうな逆説が現れています。
吉良上野介も書かれているんですが、参考にした書物が悪かったのか(A.B.ミトフォード翻訳「実録忠臣蔵」らしい)誠に僭越ながら一言申し上げたい。
作品内では、吉良上野介が浅野内匠頭に作法指南役として赤穂に赴き、赤穂城内で刃傷事件、本丸の中庭で切腹、介錯は大石内蔵助、と紹介されている。
…そもそも江戸時代の大名には参勤交代というものがあったわけで、赤穂城で誰を饗応するつもりだったんだ浅野家、「松の廊下」もできないし、介錯は城代家老ができるもんでもやるもんでもないし…

<エトセトラ>
古今の言い伝えを基にしたちょこっとした書き物など。
地域や年代が違っても伝承は似た話が多いものですね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●南米短編
感想投稿日 : 2013年2月24日
読了日 : 2010年6月11日
本棚登録日 : 1970年1月1日

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