遠きに目ありて (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書) (創元推理文庫 M て 1-1)

著者 :
  • 東京創元社 (1992年12月10日発売)
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警部の真名部はある縁で小児麻痺で車椅子の信一少年と、その母咲子と知り合う。
信一少年は実に鋭い観察眼で、警部の語る事件の様相から真相を充てる。
警部はこの母子と会うことを楽しみにし、いつか本当の家族になりたいが、自分の心構えがまだまだ足りないんだよな…と思う。
各話では、日本は車椅子の人が出歩くにはあまりにも不便だ、と問題提議している。
当時の日本はバリアフリーという概念も薄く、聡明な少年も同じ年の子たちと自分を比べて気分が暗くなることもあるが、そんな少年に対して、警察官たちが車に工夫をこらして少年と接する姿が優しい。

元は仁木悦子「青じろい季節」に脇役として出てくる少年とその母を作者の天藤真が気に入り、許可を得て自分の作品で主役にしたものらしい。

【多すぎる証人】
団地の中庭でママさんバレー練習中、メンバーの津見よし子の夫が3階のベランダへ這い出てくる。彼は刺されて虫の息で、妻に最後の言葉を伝えて息絶える。
証言を取りに行った真名部警部は、多すぎる目撃者たちのバラバラすぎる目撃証言に戸惑う。
それをある縁により知り合った小児麻痺で車椅子の信一少年に話すと、少年は見事な推理を提示するのだった。

【宙を飛ぶ死】
同窓会の参加者の井沢がホテルから姿を消す。
駆けつけた井沢の婚約者は、井沢の抱えた問題を警部たちに伝える。
捜査が行き詰った時、警部は前回の事件で鋭い観察眼を見せた信一少年のことが思い浮かぶ。

【出口のない街】
やくざとの繋がりを噂され左遷されてきた赤沢巡査。
彼は執念で自分の無実を証明するためのヤクザ、岩堀を探している。
ある街で岩堀を見つけた赤沢巡査。
しかし出口のないその路地で岩堀は死体となって発見され…

今では信一少年のことは捜査陣でも知られるようになり、
家から出られなかった信一も事件現場を生で見たがる。
車椅子の少年を家から出すため警部たちは考えをめぐらす。

【見えない白い手】
資産家の未亡人が、甥に命を狙われていると警察に相談に来た。
「我々の仕事は市民を守ることです。起きる前の事件の相談でもどしどし来てください!」という真名部警部だったが、起きる前の事件に裂ける人数は限られて…

【完全な不在】
信一少年は、警察に捜査協力する小児麻痺の少年として警視庁でも有名になり取材を受けるほどになっていた。
その信一の前で、元大物俳優の大宮と真名部警部が殺人論について議論を交わす。
そしてその大宮の家で死体が発見され…

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●日本文学
感想投稿日 : 2018年1月21日
読了日 : -
本棚登録日 : 2018年1月21日

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