シュナの旅 (アニメージュ文庫)

著者 :
  • 徳間書店 (1983年6月15日発売)
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『シュナの旅』は、ある旧い谷の王国の王子シュナが貧しい祖国の民のために黄金の穀物の種を求めて西の彼方へ苦難の旅をする物語だ。
この物語は、チベットの民話「犬になった王子」が元になっている。穀物を持たない貧しい国民の生活を愁えたある国の王子が、苦難の旅の末、竜王から麦の粒を盗み出し、そのために魔法で犬の姿に変えられてしまうが、ひとりの娘の愛によって救われ、祖国に麦をもたらすという民話である。
当時、この作品は企画が地味だからという理由でアニメ化されなかったらしいのだが、宮崎駿の、ジブリアニメの原点とも言える深い思想と世界観を併せ持つ素晴らしい作品だった。
シュナが辿り着いた時間や既成概念を超越した神人の土地はまるで『風の谷のナウシカ』の腐海みたいだし、神人の土地に生息するみどり色の巨人はあたかも『天空の城ラピュタ』の巨神兵か『もののけ姫』のデイダラボッチのようだし、シュナの相棒である家畜のヤックルは『もののけ姫』に登場しているアシタカの相棒のヤックルそのものだし、人買いの車を襲撃して輸送途中の奴隷たちの中からテアという少女とその妹を救い出す場面は『ゲド戦記』で人買いに捕まったアレンをゲドが救い出す場面を彷彿とさせるし、神人の土地から黄金の種を盗んだためにシュナが記憶や感情や言葉を全て失うという「呪い」は、お婆さんになってしまう「呪い」にかけられた『ハウルの動く城』のソフィーのようでもあった。また、『天空の城ラピュタ』のパズーとシータ、『魔女の宅急便』のとんぼとキキ、『もののけ姫』のアシタカとサン、『ハウルの動く城』のハウルとソフィー、『千と千尋の神隠し』のハクと千尋などのように、『シュナの旅』ではシュナとテアとのロマンスの要素までもちゃんと存在するのだ。

神人の土地と人間世界の対比が明確に描かれていて、人間の傲慢さや悪辣さに対する批判や、神や自然に対する畏敬の念、深い感謝と愛情のようなものも感じられ、宮崎駿の思想や世界観はこの作品からすでに出来上がっていたのだと、驚きとともに受け止めた。
神人の土地の描写はなんとも言えずすごい。前半は「なんて豊かで平和な世界なのだろう」とシュナが感じているくらい生命の気配に満ち満ちていて、人の足で荒らされたことのない深い森でおおわれ、穏やかでやすらかで、まるで天国のような感じなのだが、後半に進むにつれて建造物のような生き物が出てきたり、宇宙船みたいな青白い月が口のあたりから人間を吐き出してその生き物に注ぎこんだり、そこから出てきた水の中からみどり色の巨人が生まれたり、巨人が口から金色の種をまきはじめたり、たった半日で銃が赤錆になったり、不気味なおどろおどろしさすら感じられる異様な世界が描かれていくのだ。私は宮崎駿の想像力の逞しさに、兎に角、圧倒されてしまった。

個人的には、シュナが神人の土地を探索し自然の豊かさに感服する辺りと、嵐から麦の畑をまもり通したシュナが言葉を取り戻し、黄金の麦が無事収穫された辺りが特に良かったと思う。
『ほたるの墓』以外のジブリアニメで泣くことは滅多にないけれども、この話は珍しく泣ける作品だった、と付け加えておく。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ★漫画
感想投稿日 : 2012年1月8日
読了日 : 2012年1月7日
本棚登録日 : 2012年1月8日

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