さざなみの国

著者 :
  • 新潮社 (2011年11月22日発売)
2.85
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本棚登録 : 166
感想 : 38

名前のとおり、さざなみのような物語であったように思います。静かに、寄せては返し、大きな起伏はないまでも名残を残してゆく。
主人公のさざなみにとって、最も幸せだったのはいったいいつだったのかなあと考えさせられました。むらで叔父と暮らしていたときか、崔たちと旅をしていたときか、それともまちで家族と出会ってからか。わたしには旅の間の温かみが最も伝わってきたものだったけれど、さざなみにはどうだったのだろう。
むら人らしさの消えた彼は序盤の彼とは変わってしまっていて、ひとの成長というものの寂しさを感じたような気がします。けれどその原点には、ずっと、甘橘の姿があったのかもしれません。色恋の類ではなくて、名馬、天馬を目にしまったことへの驚きと憧れと……そんなものが、終盤のさざなみを犠牲になるよう駆り立てたのかもしれない。心理描写が少ないために彼の行動は唐突に見えるけれど、甘橘との出会いから始まっていたのかなと思います。それらしい言葉を使うなら天命。
なんだか柄でもないことを言ってしまった。
あるべきところに収まる感覚があったからかもしれません。後味の悪さはありませんでした。ひとびとが生きていて、さざなみはそれに寄り添っていたように思います。主人公というよりは語り手。決して導き手ではなくて。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 単行本
感想投稿日 : 2012年6月9日
読了日 : 2012年6月9日
本棚登録日 : 2012年6月9日

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