化粧する脳 (集英社新書 486G)

著者 :
  • 集英社 (2009年3月17日発売)
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感想 : 106
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映画「ブラックスワン」を見た人は必ず、必ずこの本を読むこと。
なんのことかと思うかもしれませんが・・・

本書は主に女性の化粧を脳科学の見地から自己認知の形成との関連について論じ、それを行動に関する自己認知にまで押し広げている。その論点には「鏡と自己認知」「化粧(≒変身)による自己認知の変化」「女性に特有な共感のシステム」などが含まれており、かなり映画と通底している。読了後にはブラックスワンを普遍的なテーマで理解し、より楽しめることうけあいだと個人的に思う。このタイミングで本著を読めたことは奇跡のようなタイミングである。

① 人間の本質ともいえる「社会的知性」・共感能力における顔の役割
人間の知性の本質はコミュニケーションであり、そのコミュニケーションには心をそのまま表現しない「ふり」も含まれる。個人の性質は他者との関係性に大きく左右されるものであるから、表情などコミュニケーションの発現もかなりの可謬性を伴う。それを想像と共感によって乗り越えてはじめてコミュニケーションが可能となる。
 また個人が自分を自分と認識できるのもこの能力のためである。
例えば「ミラーテスト」と呼ばれる試験では鏡の中の自分を自分と認識できるかが多くの動物に対して試される。自分と認識できる動物はチンパンジー、イルカなど知能の高い動物に限られ、またそれらの動物では利他的行動の傾向が顕著である。この例から示されるのは共感という他者を認知する能力がすなわち自己を認知する能力となるということだ。

② 化粧した自分を、脳は他人と捉える
化粧は表層の装飾にとどまらず、他者との関係性の中での自己(社会的自己)を形成する行動である。
化粧した自分の顔を見るとき彼女の脳は「これはより好ましい顔である」と捉えると同時に、他人の顔を見ているときと同じように捉えることが明らかとなった。これはつまり化粧という行動の本質が「自分をより好ましい他者に作り替えること」であることを示している。「より好ましい」というのは当然他者の評価を前提としている。つまり「より好ましい他人に作り替える」というのは、自分の中に評価を行う他人の視点を内在させ、同時に被評価体の顔も他者として扱うという高度な社会的知性に基づいた行動であるのだ。これはメタ認知といえるが、このメタ認知は女性が歴史的にパートナーとして「選ばれる側」だったということのセクシュアリティとも密接に関係がある。


③ メタ認知化
男が化粧をするというのは現実的でないが、化粧をするときのようなメタ認知化を自らの行動に関して当てはめるというのは有用である。このメタ認知はキリスト教の超越者たる神によって見られているという感覚とも親和的である。
この自己批評は何を基盤として行われるべきなのだろうか。筆者は「無私を基盤とした自己本位」にこれを位置づけた。一見矛盾するような両者であるが、要するにまずは個人の枠を抜けた無私の感じ方を優先する。その姿勢の下での経験の蓄積による鍛錬によって自己の主観を洗練させ、あとは自己の感覚に従うのみということである。

本書は簡潔で分かり易い語り口ながらも、個々の着想が論理として有機的につながっているので三点にまとめることは容易でなかった。この拙い書評を見て「何がブラックスワンと関係が?」と思われても仕方ないかもしれない。だが成長的変化の過程での自分の理想像とはすなわち化粧した自分といえるだろう。だから化粧した自分に関する考察とは黒鳥としての自分、リリーの中のニーナ、あるいは母の中のニーナについての考察ではないか。
なんか書評という点から脱線してすみません。

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感想投稿日 : 2011年10月17日
本棚登録日 : 2011年6月3日

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