海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

  • 光文社 (2006年10月12日発売)
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感想 : 102
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2022/3/27~2023/3/1


2022/3/27
・海に住む少女
>海に住む少女は、男のひとも女のひとも見たことがなかったので、このひとたちはいったいなぜこうしているのだろうと、ずっと不思議に思っていました。真夜中にふと、まるで雷に打たれたようにはっとする瞬間でさえ、それが気になっているのでした。 p.14


2022/2/28
・飼葉桶を囲む牛とロバ
イエス誕生のパロディ短篇。イエスを大切にするあまり死んでしまう牛の尊い自己犠牲をどう捉えたらいいのか正直困る


2023/3/1水
一年ぶりに再開して一気にのこりの8編を読んだ。
好きとも嫌いともつかない、なんとも微妙でもどかしい感じだな~~~
どの短篇も、残酷さや寂しさといったものを備えているのだが、そのなかに「優しさ」というか、ピュアさ、善性のようなものも確かにきらめいていて、それが異様に映る。どう受け取っていいのかわからない。自分を恥じる行為がしばしば描かれ、これが前述の純心さに関わってくるのだとは思う。ユーモアもあり、そこは好き。
表題作のほか、「ノアの箱舟」「セーヌ河の名なし娘」「バイオリンの声の少女」「空のふたり」あたりがまぁ好きだけど、とはいえぜんぶ「う~~ん・・・」となる面があることは否めない。

ウルグアイ出身のフランス人(フランス語)作家の幻想小説ということで、ラプラタ幻想文学(ボルヘス、コルタサル、オネッティなど)のイズムを汲んでいるような気がしないでもない。ただ、フランス小説だし、むしろヨーロッパ本流のシュルレアリスム的といったほうがよい気もする。ボリス・ヴィアンとか。そして、シュルレアリスム系譜のラテンアメリカ文学といえばカルペンティエル経由の魔術的リアリズム文学になるが、どうなのだろう。「セーヌ河の名なし娘」「空のふたり」などに顕著だが、総じて、死者の語りや死者の共同体を親近的に描いている節があり、そこらへんはフアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』のような、やはり王道のラテンアメリカ文学っぽさを感じる。まぁ、なににくくられるのでもなく、マージナルな作家ということなのだろう。

>まるで奇跡のようにありえないことでしたが、とくに意味があるとも思えません。そんな珍事にみまわれたことを恥ずかしく思いながら、少女は暗い気分で先生のところにゆきました。片手には吸い取り紙を、もう片方の手にはいつまでも乾こうとしない反抗的なノートを開いたままで。だって、現物を見せる以外に、説明のしようがないんです。絶望した少女は、女教師の目の前で、全身が涙となって消えていってしまいました。 「ノアの箱舟」二段落目 p.148

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外文学
感想投稿日 : 2023年3月2日
読了日 : 2023年3月2日
本棚登録日 : 2023年3月2日

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