ドラえもん短歌 (小学館文庫 ま 17-1)

制作 : 枡野浩一 
  • 小学館 (2011年7月6日発売)
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感想 : 68
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僕たちが今進んでいる方向の未来にドラえもんはいますか
  仁尾 智

 藤子・F・不二雄原作の「ドラえもん」。言うまでもなく、1970年代にテレビアニメ化され、長く愛され続けている漫画だ。未来から来たドラえもんは、失敗続きののび太少年を、ポケットの「ひみつ道具」を出して助ける。たとえば、どこにでも行くことができる「どこでもドア」。

  なんとなくどこでもドアに似てたのでこのアパートに住むことにした
     緒川景子

 その「ドラえもん」の題で短歌を募ったのは、NHKのテレビ番組で枡野浩一が短歌塾講師をつとめた折である。ユニークな作品が寄せられ、その後ブログに場を移し、さらに多くの投稿歌が集まった。その中から、傑作選「ドラえもん短歌」が単行本になり、このたび文庫本にもなった。漢字はふりがな付きなので、子どもたちと一緒に読むのも一興だろう。
 それにしても、「ドラえもん」で描かれた子どもの風景は郷愁を感じさせる。

  ジャイアンがもうこの町にいないのは空き地が消えたせいなのだろう
    佐々木あらら

 いわゆるガキ大将的な腕白少年も少なくなり、「空き地」よりも、塾やスイミングスクールなどに子どもたちは集う。
 掲出歌にも、はっとさせられる。ドラえもんという「未来」は、弱い存在ののび太を助けてくれた。「今進んでいる方向」の日本に、はたしてドラえもんはいてくれるのだろうか。幸福な未来像を描きづらい若者たちの、心の声のようでもある。

(2012年7月8日掲載)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2013年7月7日
読了日 : -
本棚登録日 : 2013年7月7日

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