俤【おもかげ】も絶えにし跡もうつり香も月雪花に残るころかな
土御門院
和菓子や和風小物の図柄として定番の、ウサギ。そのウサギ柄を「かわいい」と見なすのは、現代のアジアでは日本だけなのだとか。新刊の「兎とかたちの日本文化」は、そんな指摘から筆が起こされている。
西日本では、ウサギは古くから豊饒を司る「山の神」として、シンボルのように親しまれてきた。多産でもあり、民俗信仰と結び付きやすかったのだろう。
美術史でも、ウサギは独特のシンボルである。たとえば、「金烏【きんう】は「太陽」の異名であり、「玉兎【ぎょくと】」は「月」の異名。そこから、カラスとウサギは「日月【じつげつ】」を表すこととなり、絵巻に描かれたカラスとウサギは、「日光・月光菩薩の化身」として解読できるという。配置も、向かって右側にカラス、左側にウサギ。屏風絵などには、そのような深い意味があったのだ。
ところで、現在よく目にする、花びらとウサギを取り合わせた「花うさぎ」の図像は、実は、近代以降に創作された「擬古典」図像なのだとか。江戸時代までは見られなかった「花うさぎ」の図像。けれども、幕末期の「雪月花」文様にその源流を見ることができる。「雪月花(せつげつか)」は、近世までは「月雪花(つきゆきはな)」とも称され、掲出歌はその例。「交友」や「恋」を暗示させる言葉だったが、その意味を離れた新たな造形として「花うさぎ」が生まれ、いつしか伝統柄のように定着したという。
目からウサギ、いや、ウロコが落ちるような新味ある一冊。
(2013年11月17日掲載)
- 感想投稿日 : 2013年11月17日
- 読了日 : 2013年11月17日
- 本棚登録日 : 2013年11月17日
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