- Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
- / ISBN・EAN: 9784130830614
作品紹介・あらすじ
日本美術から,和歌や俳諧,染織や工芸,グッズや和菓子,現代アートまで,親しき動物の表象から見えてくる日本文化の特質とは? これまでの美術史や民俗学の枠に収まらない,広汎な分野を渉猟した方法によって,文化の伝承あるいは創造という現代の問題にまで迫る.写真105点を収録.見ていて楽しくなる一冊.
感想・レビュー・書評
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俤【おもかげ】も絶えにし跡もうつり香も月雪花に残るころかな
土御門院
和菓子や和風小物の図柄として定番の、ウサギ。そのウサギ柄を「かわいい」と見なすのは、現代のアジアでは日本だけなのだとか。新刊の「兎とかたちの日本文化」は、そんな指摘から筆が起こされている。
西日本では、ウサギは古くから豊饒を司る「山の神」として、シンボルのように親しまれてきた。多産でもあり、民俗信仰と結び付きやすかったのだろう。
美術史でも、ウサギは独特のシンボルである。たとえば、「金烏【きんう】は「太陽」の異名であり、「玉兎【ぎょくと】」は「月」の異名。そこから、カラスとウサギは「日月【じつげつ】」を表すこととなり、絵巻に描かれたカラスとウサギは、「日光・月光菩薩の化身」として解読できるという。配置も、向かって右側にカラス、左側にウサギ。屏風絵などには、そのような深い意味があったのだ。
ところで、現在よく目にする、花びらとウサギを取り合わせた「花うさぎ」の図像は、実は、近代以降に創作された「擬古典」図像なのだとか。江戸時代までは見られなかった「花うさぎ」の図像。けれども、幕末期の「雪月花」文様にその源流を見ることができる。「雪月花(せつげつか)」は、近世までは「月雪花(つきゆきはな)」とも称され、掲出歌はその例。「交友」や「恋」を暗示させる言葉だったが、その意味を離れた新たな造形として「花うさぎ」が生まれ、いつしか伝統柄のように定着したという。
目からウサギ、いや、ウロコが落ちるような新味ある一冊。
(2013年11月17日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
私はうさちゃん好きではないけれど、兔の存在には気持ちが惹かれて「波に兔模様」は大好きでした。
この本は最高のミステリーを読むように面白い。最高です。勉強にもなり、そしてさらに「兔のかたち」に興味が湧いてきます。 -
著者の本は、以前読んだ「秋田蘭画の近代」以来2冊目。
絵の解読はスリリングでおもしろい。同じ東京大学出版会の「江戸の動物画、花鳥画」も関心があるが何分大著なので未読。
入門的な新書版があるとありがたい。 -
民族的な共通認識ってすごいな。
そういうところもある意味で伝統なんだろうな。 -
うさぎ
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9月新着
「とにかく今の日本は「うさぎ人気」である」―という一文から始まる本書、読むほどに、そういえば身の回りにいるわいるわ、数え切れないうさぎたち。浮世絵から現代のうさグッズまで。特にお菓子についての記述は読みでがある。そのままネット検索して買いに行きたくなるほどだ。 -
2014.6.22市立図書館
「かわいい」だけではない、日本固有の「うさぎ」をめぐる文化論。月の兎(見返り兎)、和菓子などの伏せ兎(玉兎)、そして擬古典的な(伝統的花兎文様とは一線を画した)花うさぎの3つのテーマで、歴史・宗教・文学・美術のさまざまな方向からうさぎの意匠にせまる。
それぞれ意匠の発生時期をさかのぼり謡曲や伝承などをたどることで原典をしぼっていくのは興味深いが、やや恣意的かなと思う部分もある。せっかく図版も多く、装丁・レイアウトも手にとりやすい雰囲気にしたのだから、文章ももう少し一般読者向きにかみくだいてあれば、と惜しい感じもする。とはいえ、上村松園の「待月」を擬古典という視点から解題していくあたりはとてもわくわくしたし、なるほど意匠の変遷の知識はこういうところでいきるのかと実感した。
雪月花から発展して花うさぎが生まれたという説は興味深いが、花うさぎと同じように擬古典として生き残っている文様には他にどんなものがあるのだろう。月との関係がないということで鳥羽僧正の鳥獣戯画のうさぎや雪で作る雪うさぎなどに言及がなかったのももったいない。和菓子だけでなく、手ぬぐいの図案などもひろくみるとさらに発見がありそう。
著者はミッフィーやピーター・ラビットのような西洋渡の「かわいいうさぎ」の氾濫で、古来から受け継がれてきた「かたち」や「ことば」が失われていくことに危機感を抱いているというが、これはうさぎのみならず、ゆるキャラブームに乗っている神仏から歴史的人物まであらゆる日本文化に共通するテーマに思う。
ともかくも「うさぎ」が一人や一冊では手に負えない大きなテーマだということを実感した。 -
月と兎、波と兎などの図像から、神話や仏教美術、古典作品などとのネットワークを手繰り寄せていく。
兎デザインの裾野は、和菓子や文具と広い。
その領域を幅広く視野に入れた刺激的な論考だった。
これぞ、美術史の醍醐味というか、プロの凄みというか。