産めと言ひ殺せと言ひまた死ねと言ふ国家の声ありきまたあるごとし
大口玲子
かつて、「個人的なことは政治的なことである」という発見が、フェミニズムのスローガンとして語られていた。一児の母である大口玲子【りょうこ】は、つねに等身大のわが身の日常生活を歌っているが、だからこそ、ごく自然に「国家」とつながる発想に至っているようでもある。
1969年、東京都生まれ。すでに5冊の歌集があり、さまざまな受賞歴もある。新聞記者の夫の勤務で、宮城県石巻市に居住し、近くの女川原子力発電所を見学。その体験を百首連作にした「神のパズル」は、2004年の発表だった。
その後、仙台に移り、子育て中に東日本大震災に遭遇。
晩春の自主避難、疎開、移動、移住、言い換へながら真旅になりぬ
原発や被曝についての知識はあったものの、自らが不安の渦中の人になるという想像力ははるか遠いものだったという。2歳の息子とともに宮崎県に「移住」したが、仙台や福島で子育てを続ける人々への後ろめたさや、葛藤との闘いの日々でもあった。
新刊の「神のパズル」は、これまでの歌集からのアンソロジーと、未収録の近作、さらにエッセーと講演録も収められ、いずれも作者の呼吸そのものの、個人的な話題が平易な言葉でつづられている。
けれども、それらがおのずと国家や政策に密接につながり、太々とした声として読者の耳にも響くのだ。「産め」「殺せ」「死ね」という「国家の声」を聞きもらさず、時代の危機を表現し続ける歌人を信頼したい。
(2016年7月10日掲載)
- 感想投稿日 : 2016年7月14日
- 読了日 : 2016年7月10日
- 本棚登録日 : 2016年7月14日
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