死にぞこないの青 (幻冬舎文庫 お 10-1)

著者 :
  • 幻冬舎 (2001年10月1日発売)
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「死にぞこないの青」
マサオの戦いが始まる。


マサオは、ちょっと太り気味で運動は苦手。走るのはクラスで一番遅い。性格は引っ込み思案でクラスのみんなを笑わせることはない。しかし、それは欠点ではない。マサオはとても良い子なのだ。にも関わらず、マサオはいじめの渦に巻き込まれていく。それも、大人の指導者によって。


作者は、基本的に語り手(マサオ)の年齢は関係なく地の文で様々な用語を使用するそうです。その理由は言葉そのものは幼い為に知らなくても、言葉が意味するものは名付けられないまま頭の中に収まっていて思考しているに違いないと考えているから。


例えば、マサオは、先生が自分ばかりを虐める理由をこう結論付ける。自分は“一番下の階層だからだ”と。クラスメイトは、マサオが一番下の階層の人間だから先生に叱られることはない。先生は、クラスメイトの不満はマサオに行くのだから、自分の評判を下げることはない。ここまで考える。そして、最終的に自分はクラスのバランス係だと認識する。飼育係のようにただのクラスの係であり、クラス特有のルールであり、特段悲しむべきことではない。先生に怒られることもクラスメイトが話かけてこないことも当然なんだと理解する。


「一番下の階層」「虐められるのはバランス係のようなものだ」。小学五年生が口にすることはないだろう言葉が、マサオの頭の中で思考されている。マサオは、次第に虐めを当然と思い込むことで、悲しい・悔しいといった感情が薄れていく。このマサオの“いじめられて悔しい。哀しい。何故だ”という気持ちから“自分はバランス係なんだ。仕方がない”という諦めの気持ちに変わっていくところが非常に悲しい。


虐めとは、非常に理不尽だと痛感させられる。しかも理不尽の主犯は、羽田という大人であり、マサオがターゲットにふさわしいと考え、意図的に生贄にすることで、自らの評価を守ろうとする。クラスメイトは、先生の意図に同意することなく、自然といじめに染まっていく。逃げようにも逃げれない。


しかし、マサオは負けないのだ。負けない理由にアオの存在があった。しかし、アオは劇薬であった。「おまえは抜け出さなきゃいけない」というアオと「羽田を殺せ」というアオがいるのだ。


アオの不気味さから最後までホラー一本と思いきや、マサオの強さを見せつける結末がGOODな一冊。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年6月16日
読了日 : 2018年6月16日
本棚登録日 : 2018年6月14日

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