「新釈 走れメロス 他四篇」
日本一愉快な青春小説。こんな友情もあったのか。
大枠の世界観は守りつつも、舞台やら登場人物やらが、森見登美彦氏によって多大にパロディ化されています。新釈という表現がぴったりな作品です。名作が此処まで姿を変えるとは。
森見味が加わった過去の名作は、
◇太宰治「走れメロス」
◇中島敦「山月記」
◇芥川龍之介「藪の中」
◇坂口安吾「桜の森の満開の下」
◇森鴎外「百物語」
順不同
の5編です。何となく堅そうな作家ばかりなので、新釈版の自分の小説を読んだら怒ってしまうんじゃないんですかね。怒る彼らを森見さんが宥める、いやいや、どれだけ敬意がこもっているいるのかを熱弁する姿を想像してしまう。
一番面白かったのは、「走れメロス」。一番印象深いのは「山月記」です。「走れメロス」は、馬鹿馬鹿しさが凄まじいことこの上ないです。自分を如何に正当なのか、自己弁護且つその様を自画自賛するこ奴は、ちょっとぶっ飛んでいるけど潔い。特に「自分が戻ってこないことを知った上で人質を受け入れた親友の気持ちに応える為には、自分は戻るべきではないのだ!」を胸を張る姿は、なるほど!と思っちゃう。こじつけだけど一理あるぞとw
一方、「山月記」は、メロスと違い、重い仕上げになっています。人の内省の揺れが、びりびりと伝わって怖さを感じさせます。「自分には才能がある。他人とは違うのだ」と本気で信じて生きてきた人間が、壁にぶつかり、そこで真に向き合うべき心から目を避けてしまって天狗へと昇華する。最後に、一冊ぽとりと落ちる書き溜めた小説が、とても哀しい。
名作とは、とっつき憎いと感じる人が多いと思います。そんな人にはまず森見版から入ってみませんか?とお勧めしたいですね。
- 感想投稿日 : 2016年2月28日
- 読了日 : 2016年2月26日
- 本棚登録日 : 2016年2月21日
みんなの感想をみる