象の墓場

著者 :
  • 光文社 (2013年12月14日発売)
3.25
  • (8)
  • (24)
  • (31)
  • (5)
  • (8)
本棚登録 : 214
感想 : 28
4

日本のバブル崩壊後の10~20年間は、
まさしく、イノベーション(技術革新)の時代でもあり、
例えば、音楽では、レコードからCDへ、CDからダウンロードへと、
その形態は、まったくの別物へと急激に変化し、その結果として、
CDメーカーはどぅなるの?、レコードメーカーはどぅなったの?、
となりましたが…、同じことは、他の製品にも様々にありました。

本作品は、その一例…。
フィルムカメラからデジタルカメラへと、市場が変化した中で…、
フィルムメーカーはどぅなったの?、といぅ素朴な疑問に対して、
その答えの1つを示しています。

偶然ではありますが、昨年、江上剛さんの『断固として進め』で、
富士フィルムの、フィルム事業から化粧品事業への進出の様子が、
現場視点・開発者視点で描かれていましたが…、
本作品は、同じ命題に対する「コダック」が舞台となっています。

作中の時系列は、1992年~2004年の出来事ですが…、
この間、Windows95とiMac、インターネット、ITバブルと、
デジタルを取り巻く技術と市場は、大きく変革しており、
その変革の波に、大企業からベンチャーまで飲み込まれました…。

実際の、富士フィルムでは、
化粧品事業が所属しているメディカル・ライフサイエンス分野が、
主要セグメントの柱の一つとなってきており、順調みたぃですが、
コダックは、2008年に、チャプター11を申請しており(倒産)…、
完全に明暗が分かれています。
本作品も、お話の基本的な骨格は、現実をトレースしています…。

富士フィルムは、自社の保有技術を利用し、
フィルムから化粧品へと、まったく異なる領域に進出しましたが、
コダックは、フィルムからデジタルへと渦中で足掻いており、
その戦略の違ぃには、とても興味深ぃものがありました。

作中のソアラ社(コダック)のコンセプトと読みは、正解でそぅ。
でも…、米系企業の、株主に向いた経営の効率の悪さが、バッド!
ただ、巨大企業としての傲慢とおごりも見えたし、その意味でも、
『断固として進め』と対比して読むと、より一層面白かったです。

小説としては、
限られたページの中で、12年もの長い期間が描かれているため、
あまり、山場といぅか起伏が乏しぃお話にはなっていますが…、
その点は、
金融やファイナンス以外を扱った企業経済小説の難しさ、
といぅことにして…、及第点は、あげられると思います。

経済小説といぅと、
やはり、金融業界を舞台にしたものや、事業会社を舞台にしても、
M&Aや事業再生など、ファイナンスに係わるものが多ぃですが、
これらは、経済活動の中では、ほんの一部の業界・事象に過ぎず、
多数を占めるのは、日常生活に、直接的・間接的に係わってくる、
実体のあるモノやサービスを取り扱ぅ事業会社が、ほとんどです。

確かに、マネーゲームは、小説的なネタであるとは思いますが…、
人間の生活を支えているのは、良くも悪くも「現場」なんですし、
もっと、現場を舞台とした企業小説が増えてくるといいのにな~。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2014年2月4日
読了日 : 2014年2月4日
本棚登録日 : 2014年1月10日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする