イリヤの空、UFOの夏 その4 (電撃文庫 あ 8-9)

著者 :
  • アスキー・メディアワークス (2003年8月10日発売)
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感想 : 102

 読了し、今までの物語を振り返った時に、まるで自分が経験したかのようなノスタルジーが襲ってきた。それは、2人の物語が終わり、その先は無いというエンディングだったからだろう。未来を想像するではなくて、私は過去に想いを馳せた。セピア色の思い出が、じんわりと蘇ってくるのは、著者の文体のなせる技だろう。
 浅羽は逃げ出す。何か分からない物と戦っている少女を救うために。読んでいても、上手くは行かないだろうなとは思っていた。だけど、イリヤが親しくなったホームレスに襲われるところで、浅羽が橋の下でエロ本を見ている演出にするとは中々に酷い。そして、浅羽は襲われたイリヤを見て、いくつかミスをした。それは、すぐにイリヤに近づいて助けないで、ホームレスを襲いに言ったこと。何もされてないと言う、イリヤを信じて優しい言葉をかけてあげなかったこと。浅羽は、優しい言葉どころか暴言を吐いてしまって、イリヤは壊れてしまう。もともと無理な旅で、普通の少年である浅羽がやっていけるわけがなかった。聖人や偶然は現われなかった。
 浅羽は普通の少年で、ラノベにありがちの魅力の分からないな人だ。そして二人の関係は、恋愛にまで発展はしてない。イリヤが浅羽を好きになったのは、雛が最初に見たものを親だと認識するのと近いと思う。もしかしたら榎本が仕組んだのかもしれない。榎本の権限は年齢に合っておらずかなりのことが出来る、仲間たちがどんどん死んで自分だけが残って、出来ること人がいない場合も考えられる。そして、イリヤにも仲間というものを、大事な存在を与えたかったとしてもおかしくはない。
 榎本という人物を、10代の時には分からなかったと思う。彼も世界と少女を天秤にかけている存在で、表面上は冷静に少女の方をベットしていく。イリヤへの思いもあることは十分分かる、だけど世界も助けなければいけない。だから、イリヤと浅羽の仲を取り持った。イリヤには守るべきものが必要だと本当に思っていた。
 本作の上手いところは、UFOだとかはオカルト的に語られて、北との戦争がいつ起こってもおかしくなくて、イリヤはその戦いに参加していると思わされていた。なので、いきなりエイリアンとの戦いがあると読んだ時に、上手く誘導されていたと感じた。そうすると、水前寺が見たものもエイリアンだったのだろうか。
 エンディングでは、イリヤは浅羽の告白を受けて、世界を守るために飛んでいく。これは、イリヤにとって幸せなエンディングだったろう。好きな人が出来て、学校に行って友人も出来て、好きな人とは喧嘩もしたけど最後には告白してくれた。イリヤは心の底から、この世界を守りたいと思って飛び立った。色々な感情が渦巻いていたが、やはり幸せを感じていたと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年1月28日
読了日 : 2020年1月27日
本棚登録日 : 2020年1月27日

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