砂の花 (祥伝社文庫 あ 25-1)

著者 :
  • 祥伝社 (2007年10月1日発売)
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感想 : 9
3

読み終えて、これほど皮肉な話はない・・・と思いました。

主人公の美砂は10年間の結婚生活にピリオドをつげ、その後長年勤めていた大手企業の職も辞してしまう。
二つとも自分の意志でした事であり、それによりさっぱりして新しいスタートが切れるかと思いきやそうではなく、美砂はすっかり無気力な状態になってしまう。
しばらく無為な時間を過ごした後、彼女は決断した。
勤めてきた期間に貯めたお金が3千万余り。
そのお金が無くなる時に自分からこの世を去ろうと。
自分で言うところの「自滅ショー」。

一日10万円ずつ使うとして、リミットは10ケ月。
10ケ月後に自分がこの世から去るそのプロデュースを自ら彼女は企て実行にうつし始める。
まず、過去の恋人や知人に会い、最高の自分を見てもらい、それを記憶に焼き付けさせる。
そのため、出資して名ばかりの会社を立ち上げ名刺も作った。
最高のブランド品を買い、美味しいものを食べ、そのために太ってはならないとエステやジムに通う日々。

そんなある日、美砂は知人から一人の男性を紹介される。
彼は妻と子供を事故でなくしたばかりか、妻の裏切りにより心に傷を負った男性だった。
美砂は自分と似たような空気感を感じるその男性に惹かれつき合うようになる。
しかし、その後仕事を通して知り合った別の男性により彼女の運命は大きく変わる事となる。

これを読んで思ったのは、人間は動く事、何かしら行動をする事によってエネルギーが生まれるのだという事。
そしてそのエネルギーは生きる活力に変わっていく。
主人公の女性は死ぬ事を目的に動き出した訳ですが、その動いたエネルギーが皮肉にも生きる活力にいつの間にか変わっていた。
そして、そんな彼女を見て周囲も彼女が生き生きしていると感じ、魅力を感じる。
そこまでの皮肉なら良かったのに・・・。
彼女の場合、生きようと思った時は生きづらい状態に自らを追い込んでしまっていた。
自分でまいた種と言えばそれまでですが、あまりに皮肉だと思いました。

自らの死をショーとして演出する。
そこには周囲への配慮がなく、自分をただ良く見せようとする見栄っ張りな彼女の姿が見える。
その自分勝手な行為がこういう事態を生んだのか・・・。

それにしても・・・。
無為に何の希望もなく、ただ生きているだけの状態と生きる活力はあるけど、生きづらい状態でいる事、どちらがいいんだろう?
救いようのない内容、そしてラストのようですが、何故か物語の最初の方よりも皮肉に終わるラストの方が明るい感じがして・・・それを思うと、どんな状況であれ、自身が生きるという意志をもっているという事は何よりも強い希望なのかもしれないと感じました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 明野照葉
感想投稿日 : 2013年7月3日
読了日 : 2013年6月11日
本棚登録日 : 2013年7月3日

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