誤解だらけの遺伝子組み換え作物

制作 : 小島正美 
  • エネルギーフォーラム (2015年9月1日発売)
3.43
  • (1)
  • (6)
  • (5)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 52
感想 : 12
4

GM作物は、科学的な立場から見れば、安全性に問題がないと言えるのだ、という客観的な論点があるにも関わらず、様々な理由で、GM作物は一般消費者に受け入れられていない。本書が問題としてあげている点で、最もわかりやすいのは、特に日本国内でのそういう状況において、そもそもすでに国外で生産された遺伝子組み換え作物が輸入され、大量に消費されているのに、国内でのGM作物の生産には制限や抵抗があるというのは変ではないか、という点だろう。いわゆる清涼飲料水に使われている果糖類が米国産のGM作物であるトウモロコシが原料だったり、スーパーで売られている豚や鶏などの飼料にも輸入されたGM作物が使われている。にも拘わらず、海外で生産されたものを使うのではなく、同じGM作物を国内で生産することの何がよくないのか(むしろメリットではないか)、という点は、よく考えるまでもなく、シンプルな論点であり、シンプルであるがゆえに反論は難しいはずだ。

本書を読めば、GM作物に対しての心理的抵抗や、購買行動の抑制は、理由は様々だが、確かに誤解の上に構成されているのだろうな、ということが分かる。そもそも自然界で、人為によらず遺伝子は変化を続けてきたわけであるし、GM作物についても、組み替えられるDNAは全体の極めて小さい範囲であり、かつ、組み替えたからといって、非GM作物と比べて、姿かたちも、耐病性、耐害虫性などの特性も、極端にかけはなれたものが作り出されるわけではない。逆に言えば、GM作物に対して、何か、自然界に本来あるべきものとは、相当かけ離れたものが作り出されている、というイメージが生み出されているように思える。しかし、実際にそんなことはない、というのが本書の論旨である。

われわれ一般消費者からすれば、いろいろな世の中の情報の多くは、マスコミから伝わる。ネットの世界で共有されるものも最近は多いが、二次的、三次的だったり、つまり根拠がよくわからないものが圧倒的に多いわけで、いずれにしても、正確な事実に近づこうとするのは、難しく、かつそうするには結構時間と労力が必要になる。

私自身、本書を読むまでは、GM作物には悪いイメージを「なんとなく」持っていた。自然界に反する行為、生命を操作するのは許されるのか、という、言われてみれば根拠のない理由で反対する姿勢だった。ただ、一方で、前述のようにほんとうにそうなのか、正しい情報を自分は持って判断できているのか、正しい情報を知れば、理解し容認できる可能性があるのでは、と心のどこかでは思っていた。

本書を読んで、さっそくGM作物は問題なし、国内でも解禁すべし、と声高に主張したりするつもりもないし、まだ心のどこかに、それでも本当に安全なのか疑う気持ちや、反対する理由や根拠がどこかにないかと探そうとする気持ちが残っている。ただ、少なくとも、本書にはそれまで知らなかった、GM作物の現状や、反対を喚起する様々な情報が実は非常にイメージ的なものでしかなかったりする根拠が、きちんと誠実に説明されているのは間違いない。

マスメディアがこういうGM作物のようなものに関わらず、本来果たすべき役割は重いはずである。個人的な視点だが、例えば、食品会社にとって、自社製品に「遺伝子組み換えでない」という表示をするのは明らかにコストがかかっているはずだし、行政の面でも、許認可や規制になんらかのコストをかけているはずである。それらのコストは結局、消費者が負担することになっている。

ただなんとなく怖いな、というだけの姿勢では、消費者は安全面でもコスト面でも自らを守ることができないと思うし、少しだけでもGM作物については関心を持ってみる必要はあると思う。多くの科学者の意見や、実際にすでにGM作物を栽培している現場で、どういう考え方、意見があるのか、について幅広く紹介しようとしている本書は、関心が少しでもある人にとって一読してみる価値のある本だと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年4月28日
読了日 : 2017年3月17日
本棚登録日 : 2017年4月28日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする