クルーグマン教授の経済入門

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2003年11月1日発売)
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ポール・クルーグマン著、山形浩生訳「クルーグマン教授の経済入門」日経ビジネス文庫(2003)
クルーグマン教授は、シンプルに経済のありかたを私たちに教えてくれる。かれは、「経済にとって大事なことは、つまりたくさんの人の生活水準を左右するものは3つしかない。①生産性②所得分配③失業、これだけ。これがちゃんとしていればほかの事はどうにでもなる。それなのに、ビジネスとか経済政策は、こういう大きなトレンドとはほとんど関係がない。実際、インフレや国際競争力、資本市場の状況、財政赤字、などは国の状態のよしあしには間接的にしか影響を及ぼさない。」と言っている。本は2002年に書かれたものでTPPの話はまったく記載されていないのは当然であるが、そういう彼の考えからは、昨今問題になっているTPPの問題にも重要なヒントになる示唆があると個人的に考えた。

アメリカはドル安を維持し輸出国への転換を本格的に行おうとしている。アメリカは次のように考えている。「最大の輸出国先として日本をターゲットにTPPでの政策緩和を求めたい。つまり、日本経済がもっと開放されていたら、海外の日本企業がもっと地元にとけこんでくれたら、アメリカ製の財やサービスをもっといい条件で輸入品と交換できるかもしれない。そうなったらアメリカの生活水準があがる。しかし、日本これをやってきていない。日本の成功はアメリカを犠牲にして盗んでいる。だからTPPでもっと開国をしろ!」と。しかし現実は異なっている。つまり、アメリカのたんなる言いがかりだと自分は考える。日本はアメリカとくらべて収入から貯蓄に回る割合が6割も大きいし、子どもの教育もしっかりしている。日本の人口はアメリカの半分にも関わらず、日本の産業はアメリカ産業全体よりもたくさん投資をする。日本が輸出国だと思っている国々が多いけれど実際は日本の総生産の15%程度。これはどの先進国よりも低い数値である。アメリカが日本をバッシングするのはアメリカのプライドであって、生活水準はさほど傷はついていないのだ。そう考えると、日本がいまTPPの仲間にはいった方が良いのかは個人的には大きな疑問を感じている。TPPとは他の9カ国がいるが、実質はアメリカと日本との2カ国の契約。なぜならアメリカと日本でTPPの約9割の貿易の規模を占めてしまうためだ。

 クルーグマン教授の示唆によれば、国際競争力や、貿易政策などは、直接的にアメリカの経済向上には関係がない。つまり日本がTPPに入ろうが、アメリカ経済にはあまり影響は及ぼさないということになる。にも、かかわらずアメリカは日本へTPPを強く迫っているように感じる。私個人的な考えからいえば、ただ単にオバマ政権の票取りだけのように思えてならない。

 もっと、TPPも目的をしっかりとさせた上で、日本もアメリカも議論をして欲しい。その場の雰囲気に流されてしっかりとした目的もないままTPPに入るのは私個人として反対だ。つまり、今の状況の中、TPPに入ることは意味がない。しっかりと国の将来を考えた上で、日本のアメリカも票取りなどではなく、身のある議論、そして考え方を身につけて欲しいと、この本を読んで強く感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 経済
感想投稿日 : 2011年12月4日
読了日 : 2011年12月4日
本棚登録日 : 2011年12月4日

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