生きるぼくら (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店 (2015年9月4日発売)
4.19
  • (1230)
  • (1170)
  • (499)
  • (63)
  • (14)
本棚登録 : 13921
感想 : 1043
5


原田マハさんの”本日は~”を読んで、どういう言葉を受け取るか投げかけるかで、その人に大きな影響を与えられるっていう意味で、”言葉”って凄いなって改めて感じたけど、本作品はもう少し”人との出会い”にフォーカスされつつも、誰と出会うかその人をどう受け止めて向かい合うか、で人に与えられる影響って良くも悪くも大きいなと思った作品。

物語の中心は、主人公の人生/父親の元再婚相手のつぼみ/マーサおばあちゃんで進んでく。
それぞれが違った苦しい過去やトラウマを持ってる中で、たまたま蓼科のおばあちゃんの家で、文字通り一人ぼっちの3人が一緒に生活していく話。

本読み進めていく上で、人生の考え方/発言/行動が、蓼科来てからちょっと時間おかず変わりすぎちゃう?、って思うこともあったけど、以下が彼を変えた要因なのかな。

・マーサおばちゃん
人生の中で最後に持ってる楽しい記憶が、マーサおばあちゃんがいる蓼科での記憶で、おばあちゃんに会いに行こって思って、おばあちゃんが街のみんなから愛されてたり、米作りを通して生きるって何かを教えてくれたりしから、話の核なのは間違いない。
マーサおばあちゃんのために頑張ろうと思って仕事を始めて、田端さん含め色んな人と会話して、自分でお金を稼いで、お米を作るようになって。

・食堂で働いてる志乃さん
蓼科にあって初めての人が志乃さんで、本当に良かったんやろうね。
自室で引きこもってた人生が外に出て、1番しっかり向き合ってくれた大人が志乃さんで、作品通して、誰よりも自分の周りの人の身の上を案じてくれてるから、”大変やけど頑張って。何とかなるよ!”とか曖昧な言葉じゃなくて、現実的に具体的に、厳しさの中に優しさがある、言葉を投げてくれたり行動をとってくれたり。
学生時代の同級生は勿論、学校の先生含め、こんな大人がいなかったから塞ぎ込んでたけど、志乃さんに会って世の中嫌な人ばっかじゃないって思えたんかな。

・つぼみ
自分と同じように学生時代にいじめにあった経験があって、人とのコミュニケーションを取るのが難しい中で、同じような理由でおばあちゃんに会いに来た。
そんな中で彼女も心を開いてくれるようになって、だから自分も自分の話をするようになって、しんどかったこと、モヤモヤしてたことが頭の中でぐるぐるするだけやったのが、人に伝えられたこと、悩みを誰かに打ち明けられたことが大きかったのかな。

後は田端さんの息子の純平君が世の中に対して思ってたこと、家に篭りきりになりかけてたおばあちゃん、引き篭もってた時の人生と被る色んな出来事があって、それを蓼科に来て違った角度で見れたからこそ、その時抱えてた純平の気持ち分かるなあとか、けど自分なんでああいうふうに考えてたんやろ、とか自分を見つめ直す機会になったのかな。

読みながら書いてたから、上のコメント書く段階で感じてたのは、人生考え深くなるし、成長しすぎちゃう?、それは本やし尺もあるしなって最初は思ってた。

けどたぶんそれは違って、人生は誰よりも考えるし悩んできた中で、いじめられて塞ぎ込んでしまってから、そとの世界に出るタイミングが無かっただけで、今も昔もたぶん本質的なところは何も変わってないんやろうなって。
誰よりも優しくて、けど優しすぎて嫌な経験もいっぱいして、だからこれから彼に会ってく人は、彼が志乃さんに救われたみたいに、彼も色んな人の人生変えていくんやろね。

後はツラツラと感じたことを書いてるけど、いじめられて、その時の嫌なきっかけがあって梅干し食べられへんくて、親のお金で生きるためだけに無機質なコンビニのおにぎり食べてた人生が、蓼科に来て米を作り始めて、生きるためだけに栄養素として取ってた米を作ることで向き合うことで、色んな人と触れてサークルオブライフを感じて、最終的にはおばあちゃんが作ってくれた梅干しをふいに食べて過去の清算をして、ストーリーの描かれ方が良かったね。

タイトルの”生きるぼくら”、お米が苗から収穫してご飯になって食べるまでの過程と、人生がお米と向き合いながら成長していく過程で、吐露してたこの作中以下フレーズが大好きやし、言いたかったこと全部詰まってる気がするので、書き留めとこ、素敵な作品でした!

あんなに小さく一粒の苗から、青々と育ちつつある稲、その力。”お米の力を信じて、とことん付き合ってあげなさい”と、米づくりを始める前にばあちゃんが言っていた。
自然に備わって生きる生き物としての本能、その力を信じること。すなわち、生きる力、生きることをやめない力を信じること。
お米の力という言葉を、人間の力という言葉に置き換えてみる。すると、それは、自分の力という言葉になる。

読書状況:いま読んでる 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年2月19日
本棚登録日 : 2024年2月12日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする