夜の公園 (中公文庫 か 57-5)

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  • 中央公論新社 (2009年4月1日発売)
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リリ35歳。世間で言う、恵まれた結婚をしている。が、最近夫の幸夫のことがあまり好きではないと気づく。例えば、夫のふとした仕草。髭を剃るその掌の動き、とか。たてる音。はっきりとした咳払い、とか、そういう感じ。
リリは思う。そういうところが嫌いなのではない。幸夫を好きと信じてた頃はそれさえ愛していた、と。
なんなんだこの感情は?幸夫にではなく自分に向かっている感情って。
そんなころ、夜の公園をひとり歩くリリは、マウンテンバイクを飛ばしている9歳年下の暁と出会う。

夫幸夫は、リリの親友春名の猛烈な押しで関係を持つようになる。ありえないな、春名という女性。親友の夫に会った瞬間に。「リリは春名のその目に気づいた」とある。
しかも、春名は他にも複数の男性と関係を持つ。火中に身を投じるタイプなのでしょうか。

沢山心にはまるところがあったが、あえて一番は、幸夫が一番なのはリリだというところ。
リリ、君が私は好きなんだどうしてわかってくれないんだ。(心と体の求めるものは違う。)
幸夫が泣くところがある。
手を伸ばせば届きそうなところに幸せはあるのに、どうして、伝わらない。

リリはなぜ親友春名にぶつからない?幸夫に問い詰めない?読んでいてもどかしくてしかたなかった。あるいは春名は幸夫がリリの夫じゃなかったら、魅力を感じた?誘惑した?

不安、悲しみ、怒りや嫉妬そして喜び、それぞれの感情が入り混じっていた。
これは、夫幸夫、恋人暁を通して、リリと春名の、理屈でなく切っても切れない友情が描いてあると思う。
なぜなら、最後には、

春名、リリは心の中で呼びかける。
春名、あなたは今、さみしい?
あなたにあえないことだけが少しだけ私、さみしい。

最後に呼んでいるのは春名。

最終的にリリは、「今わたしここにいる」と、ほろほろと流れる時間の中。
子供を産むため、空をまっすぐに見上げ、リリは大きく強く、両の目を見開いた。

リリと春名が同じ感情を抱え持っている。
わたし、どうすればいいんだろう
わたし、どこにいるんだろう
わたし、どこに行くんだろう
わたし、ここにいるんだろう
という言葉。

(私的に)あまり波がなく、それがここちよく、とても心に触れて綺麗なストーリーだと思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年8月30日
読了日 : -
本棚登録日 : 2020年5月23日

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