精神鑑定とは何か: 何をどう診断するか (ブルーバックス 1075)

著者 :
  • 講談社 (1995年7月1日発売)
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感想 : 5

一般書でこのレベルまで精神鑑定について、具体的に書いてくれている書物はないのではないか?と思われる。それくらいつぶさに、精神鑑定について描かれており、またつまらないと思われる部分は著者が省いてくれているので、読んでいて退屈に感じる部分はあまりない。とはいえ、著者としてのスタイルは、個性記述的らしい。法則定立的と、個性記述的というのは対置的に使われるようだ。法則定立というのは法則重視=科学史観が強く、個性記述的=主観性も交える、といった具合になる。西欧とりわけ、アメリカなんかは科学史観+実利主義が強い風潮にあるので、法則重視のきらいがあり、しかし、精神鑑定のような精緻な作業は、個性記述的であるべきであるし、実際にそうしなければ的外れな結果を出しかねないというのが著者の主張である。これは主にロールシャッハなんかで述べられていたことなんだけれども。科学的にし、万人向けにするか?、あるいは個人重視にし、職人技にするか?というあたりは、まあ、かなり難しいところがあるのだろう。ロジャースなんかはこの中間あたりを狙ってきたんだろうけれども、やっぱり実利的な傾向の方が強いんだよね、これは国民性なんだけれども。そして、カウンセリングはロジャースの傾向も強いことがあって、かなり実利的なものとなってしまっているみたいだ。それは日本にも当てはまる。なので、今は臨床心理学はやはり専門技みたいな感じで、カウンセリングは実利的かつ万人的な手法で、なおかつコミュニケーションを活かす(もちろん、傾聴が重要なのだけれど)ということになっているようだ。ちなみに本著の魅力で言うならば、心理テストの内容なんかもかなり具体的に描かれており、それが精神鑑定で用いられているあたりなんかが面白いといっては不謹慎かもしれないが面白いのである。しかし、犯罪心理は面白いよね。言っちゃ悪いけれど。それを著者が明言しているあたりはいいと思ったけれど、推理小説みたいに……という一文は余計だと思う。推理小説みたいに読むのはさすがにどうかと思う。だって、この人たち実際に人を殺してるわけなんだからさ。それに著者はどうしても、鑑定人としての立場に立っているから被害者目線にはまるで立てていないというのも事実。無論、被害者目線に立ってはいけないという職業上のモラルがあるのはわかるんだけれどさ、だから仕方ないのも理解できるけれど、こうやって著書にするときは、被害者目線がまるでなく犯罪者目線でばかり(犯罪者の生死を左右する、犯罪者が無期で済みよかった)書いていると、結局、鑑定人っていうのは、犯罪者サイドの人間なんでしょう?みたいなことを思われかねなくて、そのあたりの配慮には著しく欠けていると感じたので、そういう人は読んでいて不快になるかもしれない。俺は大丈夫だったけれど。あと、実際に犯罪被害者が身内にいる人なんかはこういうの読めたものじゃないよね。正直なところ、「精神病なんか関係ねーよ、死ね」って感じだと思うもの。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 臨床心理、精神分析、精神病理
感想投稿日 : 2011年8月24日
読了日 : 2011年8月24日
本棚登録日 : 2011年8月24日

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