笑わない数学者 MATHEMATICAL GOODBYE (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1999年7月15日発売)
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本棚登録 : 10210
感想 : 843
4

僕のライフワークでもあるこのS&Mシリーズをはじめとする森博嗣先生の各シリーズに登場する謎の天才女性科学者『真賀田四季(シキ・マガタ)』を追うというチャレンジ・シリーズ。まだS&Mシリーズの3作品目ですが、本書も理系ミステリーの魅力バクハツでした。本書には真賀田博士は出てこないけど・・・。

そう言えば、本書から小説の書きぶりが今の森博嗣先生の書きぶりになって読みやすくなっていますね。つまり、文章で改行が多用されたり、会話シーンが多くなっていたり、状況説明や環境説明が少なくなっているということです。森博嗣先生の処女作でS&Mシリーズの記念すべき第1作『すべてがFになる』や前作の『冷たい密室と博士たち』はページにびっしり字が書いてあって読むのに時間がかかりましたが、本作はサクサク読むことができます。

本書のあらすじですが・・・
希代の数学者である天王寺翔蔵博士の住む「三ツ星館」。そこで開かれたパーティーに天王寺博士の孫のつてで招待された本シリーズの主人公、犀川創平助教授と大学生の西之園萌絵。パーティーの席上、博士は庭に設置されている大きなオリオン像を消してみせる。一夜あけて、再びオリオン像が現れた時、パーティーに招待されていた天王寺博士の家族二人の遺体が発見される・・・
という感じです。

本書のオリオン像のトリックについては序盤の方で大体分かってしまい、ちょっと犀川先生が気づくの遅いかなと思いましたが、やはり、犀川先生が自分の空間の中に入って、完全に事件の謎を解き明かすところは格好いいです。
そして犀川先生が犯人を名指しした後で
  「動機?そんなものは知らない」
と言い放ち、関係者を唖然とさせるところが、このS&M理系ミステリーシリーズの醍醐味ですよね。
つまり『理系ミステリー』とは「ハウダニット(どうやったか?)」「フーダニット(誰がやったか?)」だけを追求し、ミステリー解明の三大要素の一つである「ホワイダニット(なぜやったか?)」を完全に無視するところにその本質があるのです(←適当)。

また本書での読みどころは、謎解きもさることながら、やはり、犀川先生と西之園萌絵との恋の行方でしょう。
今回は以前にも増して萌絵ちゃんの犀川先生に対する『好き好き攻撃』が激しい(笑)。
犀川先生も萌絵の気持ちを正確に理解しているところはちょっと驚き(笑)ですが、まあ、13歳も年下で小学生の頃から知っている女の子が自分に憧れてる気持ちって、解らんでもないですね。
ただ、萌絵ちゃんももう21歳だしね。いつまでも子供扱いするのもかわいそうな気もします。
さりとて34歳にもなる助教授が、二十歳そこそこの学生に手を出したなんていうと世間体も悪いしねぇ。犀川先生も悩みどころです(笑)。

森博嗣先生の作品には必ず素晴らしい名言がちりばめられていますが、今回も犀川先生、格好いいことをずばっと言ってくれています。
『教育~教育というものが概念として存在するとすれば~』についてです。
  『人間は自分の生き様をみせること以外に、他人に教えることなど、何もないのだ。
  一般に使われている教育という言葉は、ありもしない幻想でしかない。』
うん。格好いいですね。
しかも、これが実際、教育者(犀川先生も作者の森博嗣先生も)の言葉なのですから(笑)。

という訳で、話は戻って、ラストの萌絵ちゃんからの犀川先生への謎解きには、困ったもんです。
YESと答えてもNoと答えても、どちらにしても『萌絵得』ですもの(笑)。
まあ、僕だったらそうですね~。
「おでこにチュウ」くらいで勘弁しておくか。って、クラリスとルパンのラストシーンかっていうのっ←

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(エンターテイメント)
感想投稿日 : 2019年12月13日
読了日 : 2019年12月11日
本棚登録日 : 2019年12月13日

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