本書はアゴタ・クリストフの傑作『悪童日記』三部作の完結編。
一気にこの三部作を読了したが、非常に考えさせられるものがあった。
1作目の『悪童日記』では第二次世界大戦の戦中、戦後の混乱のなか、双子の兄弟が必死に生き残っていく姿が淡々と描かれた。
2作目の『ふたりの証拠』では、別れ別れとなった双子の青年期を東側諸国となったハンガリーに残ったリュカの目を通して描かれた。
3作目の本作では、別れた双子が涙の再会をするのかと思えば、そう簡単な話ではなかった。
この双子の存在自体が虚構であったのではないか、あるいは、いままで述べられてきた物語は全くの空想であったのではないかと読者に思い起こさせるような展開となっていく。
ただ、この三部作については実際のところ、この双子の兄弟にどのような事実があったのかを突き詰めることはまったく必要のないことだと思う。
どのエピソードも事実であり、実際に『誰か』の身の上には起こった物語なのであろうから。
そこを読者がどうとらえるかということなのだろう。
本書は著者の自伝的要素も多分にあり、著者は西側諸国へ運よく来ることができたが、もし東側に残っていたらこういう人生もあっただろうということを想像し、東側に残ったかもしれない「もう一人の自分」の物語を書いていったのだろう。
そう考えると、この戦争が分岐点となり、自分が二つに分かれてしまって、その二人がそれぞれの人生を歩んでいった想像の姿が、この物語に記されていった考えたほうがわかりやすいのかもしれない。そこにはまた更なる分岐点がたくさんあったはずであり、その分岐点の末端をそれぞれすくい上げて、文章に書き記していったと考えると腑に落ちることもたくさんある。
非常に心を動かされた3部作であった。
- 感想投稿日 : 2020年12月5日
- 読了日 : 2020年11月29日
- 本棚登録日 : 2020年12月5日
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