わたしは真悟 1 (ビッグコミックススペシャル 楳図パーフェクション! 11)

著者 :
  • 小学館 (2009年12月26日発売)
4.52
  • (43)
  • (14)
  • (9)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 255
感想 : 17
4

SF・ジュブナイル・恋愛・陰謀もの・神話など、様々なテーマが詰め込まれた楳図かずおの漫画。

序盤は、主人公である少年「さとる」と少女「まりん」が子どもながらに愛を貫こうとし、所詮子供の恋愛だと一笑する大人達に対してさとるの父親が働いている工場にあったコンピューター<モンロー>を介して対抗していく展開。中盤以降は、二人が離ればなれになってしまった後で<モンロー>が二人を繋ぐメッセンジャーとして意志を持って街をうろつきだすSF色の強い内容になり、徐々に神秘的で不可解な出来事が強まっていく。


中盤以降の不可解で啓示的な展開も面白いのだが、とにかく物語全編を貫く核となる少年と少女の出会いと別れを描いた前半が素晴らしい。美しすぎる。

大人になると誰もが失ってしまう子供の世界と秩序の中で生きる少年と少女が、大人になることを頑なに拒否して戦い続ける姿にはかなりぐっとくるものがあった。

物語としては全体的に整合性が取れていない部分や無理矢理な展開が多く、やや不細工な漫画ではあるのだが、作者である楳図かずおの作品に込めている強い情念と意志がその不細工さを凌駕している。

特に主役の二人が東京タワーに登る場面は非常に高いテンションで描かれており、入魂の名シーンだと感じた。
「わたしたちは今が一番幸せな時かもしれないわ」というまりんのセリフや、ランドセルを踏み台にしてジャンプするシーン、そしてその跳躍の結果として<モンロー>に起こる事象などは、子供から大人への成長とそれに伴って失われるものを強く意識させられる。


全体的に物語が形而上学的に構成されており、現代をベースにしながらもどこかおとぎ話のような、不可思議で隠喩的な表現の多い作りになっているせいか、読んでいると自分でもよくわからないままに童心を(あるいはそれを既に失ってしまった自分を)思い返してぐっと涙がこみ上げてしまうようなところがあった。

楳図かずおの作品は漂流教室くらいしか読んだことがなかったので「ぶっとんだ設定のホラー漫画家で、絶叫顔を描く達人」という程度のボヤ〜ンとした印象しか持ちあわせていなかったのだが、読んでみると非常に独特で魅力的なインスピレーションを持つ熱い漫画家だと感じた。
ホラー漫画家であるのに悪いことと良いことの境目をあえてあやふやに描いているところが面白い。シーンに対して読み手が恐いと思えばいいのか、笑えばいいのか、怒ればいいのか、判断に困るような演出をおそらくはわざと行っていて、そこが怪しい魅力になっている。

単純に「この人の感性によって描かれた荒唐無稽な物語・場面・シーンをもっと見てみたい」と思わせる個性があり、熱狂的なファンがいるのもうなずけた。他の作品も読んでみようと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 漫画
感想投稿日 : 2011年10月3日
読了日 : 2011年10月2日
本棚登録日 : 2011年10月2日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする