コーヒー・ブレイク11夜 (文春文庫 あ 2-5)

著者 :
  • 文藝春秋 (1984年9月1日発売)
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感想 : 13
3

1978年から1982年に、様々な出版社の雑誌に発表された短編を11編収録した、寄せ集め的な作品集。単行本は1982年に刊行。
各短編の最初に、ブラック・コーヒーの絵があり、最終的にブラック・コーヒーが11杯、となるように、ブラック・コーヒーとブラック・ユーモアを掛け合わせた意味のタイトルかと思いますが、ここに集められた作品は、阿刀田高作品の中でもそれほどブラック・ユーモア感は濃くなく、最初に収録された「あなたに捧げるブルース」が強烈にブラック・ユーモア感があるのと、あとは阿刀田高作品に時々見られる老女が活躍する「お望み通りの死体」、殺人計画もの「グッド・タイミング」「電話で自殺を」以外は不思議系の作品ばかりです。
一番印象に残った作品は、やはりブラック・ユーモア感がある「お望み通りの死体」です。


以下は簡単に各作品の感想を↓


あなたに捧げるブルース
31才・独身の、サラリーマンが主人公。
ポケットの綻びから、運命がどんどん悪い方向に転がっていく一日を、強烈なブラック・ユーモア仕立てで描いています。
ブラックな笑いが加速していく様子が実に楽しいですが、電車に乗車するのに、自動改札機が無い時代ならではのネタでもあります。


冥い道
迎えにいく人と、道の途中で会う約束をしておきながら、行き違いになってしまう不思議を、ブラック・ユーモアはかなり控え、怪奇仕立てで描いた一篇。
これも、携帯電話なんて無かった時代ならではのネタですね。


グッド・タイミング
恋人の浮気を自ら探り、浮気相手に殺意を抱く女を描いた一篇。
ヒロインが殺意を抱く割には、女の怨み、というものは感じさせず、ヒロインが天然系のほんわかキャラなので、内容の割に作品全体がほんわかとしたものになっています。


おしゃべりな脳味噌
内蔵の病気になり、手術を待って入院中の次郎青年が見る夢が綴られていく一篇。
次郎青年が見る夢の中では、次郎青年が何かの生き物に変身しているので、不吉な予感を感じさせつつも、どこか楽しさのある仕上がりでした。


壁からの声
盗聴が趣味の男が、犯罪計画を聴いてしまう、という一篇。
ヒッチコック映画の序盤部分だけを膨らませて描いたような、サスペンスとして盛り上がる前にオチがきてしまったという感じもする作品。


お望み通りの死体
おばあちゃんが、ふと手にした古新聞の記事から、自分が住むアパートに死体が埋められているのではないか、と疑う物語。
おばあちゃんが主役の阿刀田高作品は、大体、ブラックでありながら痛快な雰囲気がありますが、これもそうした一篇。


骨の樹
少年期を過ごした場所に、ふと立ち寄った男が、美しい女性と出会い、一晩を共にするのだが、というロマンティックでノスタルジックな怪談で、ブラック・ユーモア感は、全くありません。


だれかが夢を覗いている
あまり親しくない男女が、お互いにお互い登場するという共通の夢を見る、というちょっとロマンティックなストーリーが、徐々に恐ろしくなっていきます。これもブラック・ユーモア感はあまりなく、潜在意識の不思議を描いた一篇。


電話で自殺を
前半と後半では、ずいぶんと印象が違う一篇。
前半は昔別れた恋人同士が再会するロマンティックな物語で、突然別れを告げた彼女に何か秘密ごありそうな雰囲気。
後半は、男が、再会した女との恋に溺れ、妻を殺そうとする物語で、秘密がありそうだった女には特に秘密は無く、阿刀田高作品にありそうな妻殺しのブラック・ユーモア全開の犯罪小説。


影絵
書いた絵が、目には見えないのに実体化したような、そんな不思議な気がする絵の具を手に入れた貧乏画家の物語。
不思議な話ですが、語りの妙で、怖ろしい話になっています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年3月2日
読了日 : 2020年3月2日
本棚登録日 : 2020年3月2日

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