月魚 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店 (2004年5月25日発売)
3.73
  • (876)
  • (998)
  • (1290)
  • (192)
  • (37)
本棚登録 : 9556
感想 : 1033
5

私は「舟を編む」を読んで以来、三浦しをん さんのファンになったと言えるのですが、こちらの作品も「舟を編む」とはまた別の”恋慕”が描かれています。

無窮堂という古書店を営む三代目当主の本田真志喜(ほんだましき)と、その幼馴染で自身も卸の商売をする瀬名垣太一(せながきたいち)の出会いから現在、そして未来を感じさせるところでこの本は終わるのですが、二人の関係が綿密で繊細であるということを、著者は素晴らしい筆致で表現しています。
ある一定以上距離を詰めないと分からない、お互いの心の動揺を感じ取る一種の以心伝心であったり、相手を思うが故に手出しできない暗黙の縛りのようなもの。それらを物語の隙間に的確に挟み込むことによって、読者が「この二人の関係は単なる幼馴染ではないんだな」と感じるように構成されています。

ところで、私がもしこの著者の作品の「どこか一点だけを好きな部分として挙げなければならない」と言われたら「文体」と答えます。
作品の雰囲気や人物描写、読みこんだときの没入感を左右する決め手となるもので、ここがあやふやになっていると読んでいてもイマイチ分からなかったり、逆に装飾が多すぎるとゴテゴテした文体に辟易してしまったりするからです。
私にとって著者の文体は一番すっと自分の中に入り込んできてくれて、物足りなく感じず多すぎるとも思わない、絶妙なバランスです。

三浦しをんさんの描く話というのは、ドキドキハラハラというものではありませんが、だからこそ人物模様やそこにいる人たちの機微が感じられて、繊細で美しい。
月魚もそんなお話だと感じました。

真志喜と瀬名垣の高校時代を描いた短編も甘酸っぱい青春、という感じでとても楽しんで読みました。
文庫版には短い書き下ろしがありますので、文庫版をオススメします。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: レビュー済
感想投稿日 : 2021年7月10日
読了日 : 2021年7月10日
本棚登録日 : 2021年7月10日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする