タイトルと内容に圧倒されがちです(と私は感じました)が、丁寧に真摯に読み進めると、単純に性を売る少年とクラブオーナー女性という枠から外れたほの温かさの伝わる物語でした。
【あらすじ】
主人公は未成年の大学生、リョウ。
とあるきっかけから女性客をもてなすボーイズクラブのオーナー、御堂静香に出会い、娼夫として働くことになる。
同級生からも反対され、一触即発の場面もありつつ、彼が下す決断とは……。
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姫野カオルコさんの解説にもあるように、「やさしいものがたり」であり、「(物語の)すじはどうでもいい」という人向けの物語です(物語本編もさることながら、解説が的確で素晴らしいです)。
ストーリー自体は全くもって単純、シンプルです。
しかしそれとは対照的に、著者の文筆センスは(解説でも“イカした”と形容されていますが)とても美しく、スタイリッシュでキラキラしています。
それはもう、読書メモにたくさん表現を書き溜めてしまうほど。ドキリとさせられる一文から、その瞬間を切り取る鋭い一文まで、美しい表現が満載です。
「性的なジャンルを深く切り込んだ小説なのでエッチなことばかり書いているんじゃないの?」と思われている方もいらっしゃると思いますが(それは私だけかもしれないですね)、性・セックスというものを媒介にして、様々な人間の側面に触れる物語とでも言いましょうか、我々はリョウの心を通じて様々な年代の様々な人生を持つ女性の側面(男性もですが)を具に眺めることになります。
それは時に生々しく、痛々しいものもありますが、私はこの本を通じてみたその世界にはセックスしかなかった、とは感じませんでした。
人生に退屈した少年のひと夏の物語。もう夏は過ぎてしまおうとしていますが、この夏の読書にこの一冊を選ぶことができて良かったと感じています。
- 感想投稿日 : 2019年9月7日
- 読了日 : 2019年9月7日
- 本棚登録日 : 2019年8月21日
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