セックスボランティア (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2006年10月30日発売)
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本棚登録 : 1136
感想 : 188
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当時、大学卒業後だった著者が書いた取材をもとにしたルポルタージュ(デビュー作)。障害者にとって”無かった”ことにされる性の問題について切り込んだ内容。
河合香織さんの本を読むのは「選べなかった命」に続いて2作目となります。

時系列的にはこちらの方が「選べなかった命」より前になりますが、既に2018年「選べなかった命」を出版した彼女が、なるべくしてなった形だということがその文面から伝わってきます。
取材に際して葛藤する初々しさはありつつも、どこか真剣でひた向きな取材姿勢が伝わってくるようでもありました。

少し障害者について接点があったこともあり、私自身では「障害者=特別な人ではない」ということは明確なことだったのですが、皆さんのレビューを見る限り、そしてこの本を読む限り(少なくとも当時は)それが「当然ではなかった」ということが見て取れます。

障害者の歴史(というと語弊がありそうですが)について詳しく知らないのですが、この「障害者は性欲なんてないし、セックスだってしない。そもそもしたいとも思わないだろう」という考え方が一般的なこと自体、日本の「座敷牢」などの影響が色濃いのではと読みながら考えていました。障害者を人目に晒さない時代風景の中で、健常者と障害者の接点が限りなく少ない生活の中にあっては、「障害がある=我々とは違う特別な存在」として認識されやすかったのではないかと想像しました。

この本の著者(つまり取材者)が障害を持つ人々(取材される側)にとって「まだ純粋で学生を出たばかりの女性」だからこの内容を緻密に話してくれたのではないか、と考えたのは私だけでしょうか。
恐らく障害を持つ人々にとっては数えきれない差別の歴史が人生でしょうし、ある意味では「またそれ?」と思わざるを得ないような(著者からの)質問に対して、真摯に答えてくれたというのは一つにその取材者が親切だったというだけではなく、この取材者(著者)に対して彼らが「我々の気持ちをこの人ならわかってくれるかもしれない。だから何度も何度も話しては誤解を受けたり笑われたり軽蔑されたりもしたけれど、もう一度話してみよう」と考えた結果ではないかと思うのです。

「健常者だから大抵のことはできる」と、我々は恐らく殆ど全員が思っていると思いますし、その気持ちがないことには生きていけない心理的側面もあると思います。
しかし一方で「できるかどうかに健常者かどうか、は関係のない事柄」についても今一度深く考えてみても良いのではないだろうか。
そんな風に思った本でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: レビュー済
感想投稿日 : 2019年11月18日
読了日 : 2019年11月18日
本棚登録日 : 2019年11月6日

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