天地明察

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2009年12月1日発売)
4.22
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感想 : 1854
5

【感想】
正直なところ、天文学関係の専門的な内容は全く頭に入ってこなかったが・・・・
主人公をはじめとする登場人物の魅力がとても高い作品で、読んでいてとても面白かった。
歴史を引っくり返すという大きなプロジェクトに生涯を捧げた男たちの物語は、本当に読んでいて胸が熱くなる。

現在の自分の使命に疑問を感じ、才能がありながらも苦悩する渋川春海。
彼が己の生涯を賭けるに値するミッションを見つけることができた事が羨ましいなと思った。
やはり、この世に生まれたからには、己のすべてを捧げないといけないような事業に関わらないといけないなぁ。
平和で平凡な人生も決して悪くないが、やはりそういった人生も歩みたいなと憧れの気持ちを抱いた。

登場人物の全てが実在するノンフィクションの作品というのもオツでした。


【あらすじ】
江戸、四代将軍家綱の御代。
前代未聞のベンチャー事業に生涯を賭けた男がいた。
即ち、日本独自の太陰暦を作り上げること。
碁打ちにして数学者・渋川春海の二十年にわたる奮闘・挫折・喜び、そして恋。

俊英にして鬼才がおくる新潮流歴史ロマン。
日本文化を変えた大いなる計画を、個の成長物語としてみずみずしくも重厚に描く傑作時代小説!!


【引用】
p115
碁は、春海にとって己の生命ではなかった。
過去の棋譜、名勝負をどれだけ見ても悔しさとはほど遠い思いしか抱けない。
今の碁打ちたちの勝負にも熱狂が湧かない。

算術だけだった。
これほどの感情をもたらすのはそれしかなかった。
飽きないということは、そういうことなのだ。だから怖かった。
あるのは歓びや感動だけではない。
きっとその反対の感情にも襲われる。

退屈な勝負に身を委ねる方がよっぽど気楽で入られた。
そうすれば、こんな怖い思いとは一生縁がなく生きていける。

だがそうなればきっと、本当の歓びを知らずに死んでゆく。
一生が終わる前に、今生きているこの心が死に絶える、そう思った。


p276
保科正之の非凡さ
「なぜ島原の乱は起こった?」
「なぜそもそも一揆は起こる?」
凶作、飢饉、飢餓。調べれば調べるほどそれらが第一原因だと確信した。

さらに疑問を続け、
「民のために蓄える方法を為政者たちが創出してこなかった。」
と過去の治世の欠点を喝破し、
「凶作と飢饉は天意に左右されるゆえ仕方なしとすれども、飢饉によって飢餓を生み、あまつさえ一揆叛乱を生じさせるのは、君主の名折れである」という結論に達した。

将軍とは、武家とは、武士とは何であるか?
「民の生活の安定確保をはかる存在」と答えを定めている。
戦国の世においては、侵略阻止、領土拡大、領内治安こそ何よりの安定確保であろう。

では、泰平の世におけるそれは如何に?という問いに、「民の生活向上」と大目標を定めたのである。

結果、なんと凶作の年にも他藩に米を貸すほどの蓄えとなり、ついには「会津に飢人なし」と評されるに至った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2018年12月12日
読了日 : 2018年12月12日
本棚登録日 : 2018年12月12日

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