華麗なる一族(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1980年5月25日発売)
3.88
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本棚登録 : 3036
感想 : 220
5

【感想】
上中下3部作の下巻を読み終えましたが、かなり壮絶な終わり方でした。
ちょっと前にドラマで「半沢直樹」を観ていて、池井戸潤特有のスカっとするような勧善懲悪の終わり方を本作品にも期待していたのですが・・・
そこは山崎豊子、容赦がありませんね。残念ながらかなり胸糞悪い終わり方となっていました・・・
この一族、全然華麗じゃねえよ!!!!笑

読んでいて特に、下巻で凋落っぷりを感じたのは、やはり相子に関するエピソードでしょう。
上巻・中巻では思うがままに万俵家を采配し、栄華を極めるような相子でしたが、下巻の途中からは万樹子の里帰りや、次女・二子の縁談がうまくいかないなど自身の影響力の低下が露わになり、最後は大介から破局の申し出をされ取り乱してしまう始末。
読者としてはざまあ見やがれ!と思いましたが、よくよく考えられると大介に弄ばれた一人の不幸な女性だと思うと、哀れでなりませんでした。

また、万俵大介も、下巻になって影響力に衰えを見せ始めた内の一人だったかと思います。
あれだけ憎んでいた鉄平が自死を遂げてしまい、その時になって初めて鉄平と自分が血のつながった父子だと理解するなんて、なんて滑稽なのかなと読んでいて思いました。
そして、万俵自身が色々な事を犠牲にしてようやく成し遂げた都銀同士の合併でしたが、それすらも近い将来により大きな銀行に食われてしまう事が確定事項としてあるなんて・・・・
作中では描かれていませんが、近い将来にこの「華麗なる一族」が凋落する事を喚起させる描写に、戦慄が走りました。


などなど、かなりドロドロして胸糞悪い終わり方をした物語でしたが、唯一の救いだったのは、鉄平の死後に心情の変化があった万俵家の子ども達でしょう。
二子は結局お見合いは破談となって自身が思い合った男性と縁を結ぶことが出来ました。
ニヒルで斜に構えた考え方しかできなかった次男・銀平も、鉄平の死によって心の氷が融和するような描写がありました。
鉄平は犠牲となりましたが、その命と引き換えに、万俵家の子どもたちに新たな幸福が訪れる事を、切に願っています。


【あらすじ】
万俵大介は、大同銀行の専務と結託して、鉄平の阪神特殊鋼を倒産へと追いやり、それをも手段に、上位の大同銀行の吸収をはかる。
鉄平は、三雲頭取を出し抜いた専務と父親の関係を知るに及び、丹波篠山で猟銃自殺をとげる。
帝国ホテルで挙行された新銀行披露パーティの舞台裏では、新たな銀行再編成がはじまっていた。
聖域〈銀行〉にうずまく果てしない欲望を暴く熾烈な人間ドラマ。


【メモ】
p56
「では、ご機嫌よう。皆さまにはあなたからおよろしく」
と言い、万樹子は玄関を出て行った。
その後ろ姿を見送りながら、相子は、どうせ自分の婚前の秘密を明かされることを恐れて、万俵家の三台並んだベッドのことも言えず、舞い戻って来るに違いないとたかをくくっていたが、初めて自分の指図が通らなかった口惜しさが相子の心を錐揉んだ。


p156
こうして一対一で向かい合うと、一種の威圧感を持って映る。
万俵はこの時、自分が都市銀行でただ一人のオーナー頭取のは云いながら、たかだか第十位の地銀的都市銀行の頭取にしか過ぎないことに、かすかな劣等感を覚えた。

(中略)

総理夫人の予定に合わせて、二度も正式の見合いの日取りを変更し、京都の嵯峨の「吉兆」であれほど大層にした見合いであるにもかかわらず、総理には全く伝わっていないのか。
万俵は自尊心を傷つけられて、視線を総理の背後へ移した。

(中略)

万俵は、視線を佐橋総理へ向けた。
今日の本当の目的は、総理夫人の甥の細川一也との婚約を有難って報告に来、田舎者扱いされるためではない。


p278
「いまとなっては、お目にかかる必要はないと思います。あなたと私との間はもう終わっているのです。あとは法廷で争うだけです」
万俵の耳に法廷という言葉が強い響きを持って残った。

(中略)

万一そのようなことになれば、阪神銀行の信用と同時に、万俵家の家名を汚し、来春にひかえている二子の結婚にまで響き、ここまで完璧に積み上げて来た自分の野心が一挙に打ち砕かれてしまう。

今は何よりも、鉄平に告訴を取り下げさせることであった。


p314
「お父さんも、今度ばかりは、やり過ぎですよ」
「なにがだ?」
「鉄平兄さんのことですよ。会社を潰しておいて、その上、管財人が帝国製鉄の常務ではひどすぎますよ」

(中略)

「兄さんに対するお父さんの態度は少なくともそんなものじゃありませんね。しかし、どのような大きな意図のもとでも、息子の会社を平然と潰すお父さんと、だからと云ってそれを告訴する兄さんも、どちらもおかしいですよ。僕には解りませんねぇ」


p501
三雲は、しばし万俵の顔を凝視し、
「万俵さん、孟子の教えに『天下ヲ得ルニハ、一不義ヲ成サズ、一無辜ヲ殺サズ』という言葉がありますねぇ」
静かな淡々とした語調で言った。
天下を得るには、一つの不義もなさず、一人の罪なき者も殺してはならぬという意であった。
自ら不倫、不義の私生活を営み、罪なき者、鉄平を死に追いやってしまった万俵としては、その言葉がぐさりと鋭く胸に突き刺さった。


p521
「あなたって怖ろしい人ね。ご自分の企業的野心を満たすためには、親子の絆のみならず、男女の絆も、ご用済みとなれば平然と切っておしまいになるのね」
相子は許し難いように言い、目の前の封筒を万俵に押し返した。
「別れない!意地でも別れて差し上げない!」
万俵は瞬きもせず、相子を凝視し、
「妻でもなく、まして子供もない仲で、意地でも別れないなどというのはおかしいじゃないかねぇ。相子らしくない取り乱し方だ」
ぷつんと断ち切るように言った。


p527
「金融再編成の火蓋を切るために、ともかく都市銀行同士の大型合併が必要だったからだ。
(中略)
今日発足した東洋銀行の合併後の体質改善を図り、名実ともにワールドバンクたる銀行をつくる。
そのためには東洋銀行を上位4行の一つと再合併させることだ。」
永田大臣の声が室内に低く籠り、美馬は驚愕のあまり言葉も出なかった。

(中略)

その一瞬の引きつれるように歪んだ笑いが、まさか舅である自分を裏切る戦慄だとは、万俵は気づかなかった。
万俵は、3年先に再合併される運命に置かれつつあることも知らず、会場を埋めた来賓たちの乾杯を受け、激励の握手をさらに受け続けていた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年10月13日
読了日 : 2020年10月13日
本棚登録日 : 2020年10月13日

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コメント 3件

kurumicookiesさんのコメント
2020/10/14

きのPさん、

ドラマの時に見てなかったのですが、いつか読んでみたいと思っている作品です。きのPさんの感想を読んで、絶対、いつか読みたいと思いました!
でも上、中、下巻は、読むのに大変そうです(*´-`)

きのPさんのコメント
2020/10/16

kurumicookiesさん
コメントありがとうございます(*^^*)
上中下巻と長編ですし、内容も中々ハードなのですが、気が付いたら読み終えているほどのめり込める面白い作品ですよ♪
是非ご一読ください(*^^*)

トミーさんのコメント
2021/03/25

きのpさん

さすが読後済みでしたね。
私めも早くにレビュー読ませていただいてました。
もうのめり込んで
山崎豊子作品を片っ端から読んだ時が楽しかったです。
ここまでの作者は令和に現れますかね。

もうぐいぐい引っ張られました。
人間って哀れですね。

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