白い巨塔〈第3巻〉 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2002年11月20日発売)
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【感想】
何とか教授選を勝ち切り、無事教授になった財前でしたが、その慢心ゆえに、同期である里見の助言を全て無視し、挙句の果てには患者を死に至らしめて訴訟されるという大きなミスを犯してしまう。
ただ、この本の胸糞悪いところは、裁判に関わる医者たちの殆どが、その専門的な知識を駆使して患者やその遺族ではなく、財前や自分たちの立場を守るといった愚行に走った事でしょう。
そして、正しいことをしているはずの里見が大学病院を追われ、罰を受けなければならない財前が何食わぬ顔で病院内でのさばり続ける・・・
本当に読んでいて胸糞悪くなりました。

この本を読んで分かる腐敗した世界観は、正直なところ現代ではかなり改善されているのではないかと思います。
僕自身、仕事で大学病院などに訪問したり院内の色んな医師とお話をしますが、コンプライアンスにうるさい今日、国立病院では接待は基本NG、会社からの寄付でさえ上限金額が決められるなど、むしろ医師にとってかなりウマミがなくなってきているのが現状かなと思います。

また、これは病院や診療科などその医局によって異なるかもしれませんが、上下関係はあるとはいってもフランクな医師も多く、総じてみると封建的な印象なんてあまりないようにも感じます。
少なくとも、この小説のように、患者にとってここまで傲慢な医師なんていないと思います(笑)
なんなら、「ブラックジャックによろしく」のような院内の雰囲気すら、現代の病院にはないと思います。
(しかし、医師や医療従事者の人材不足はコロナ前からずっと課題としてありますが・・・)

ただ、現代でも医療事故は減ったとはいえ起きており、被害者によっては泣き寝入りを強いられる事はあるようです。
その構図は段々と良くはなっているとはいえ、根深い問題として残っているのかもしれませんね。

こういった改革は、何も医師たちを虐げる為にやるわけではありません。医師や医療従事者の方達は、本当に尊敬に値する存在です。
また医師や医療従事者のワークライフバランスもしっかりと確保した上で、医療事故を極力防止し、より良い医療がこれからも受けられる世の中であってほしいと願います。

さて、「白い巨塔」も5分の3を読み終えました。
ただ、正直今のところは胸糞展開ばかりで、読んでいてあまり面白いと感じておりません(笑)
残り2巻、"名作"である所以をしっかりと僕に魅せて頂きたいですね!!(何様)


【あらすじ】
財前が手術をした噴門癌の患者は、財前が外遊中に死亡。
死因に疑問を抱き、手術後に一度も患者を診察しなかった財前の不誠実な態度に怒った遺族は、裁判に訴える。
そして、術前・術後に親身になって症状や死因の究明にあたってくれた第一内科助教授の里見に原告側証人になってくれるよう依頼する。
里見は、それを受けることで学内の立場が危うくなることも省みず、証人台に立つ。


【メモ】
p329
「何を根拠にしてとか、ぶこく罪とか、そんなことは知りません。けれど、財前という先生の無責任な診察で夫が思いもかけぬ死に方をしたことは事実だす。この間から大学のえらい先生たちが鑑定に出て、素人にはわからんような難しい医学のやりとりばかりをしてはりますが、なんでそんな難しいことばかりを言わんならんのです?財前という先生が、患者をちゃんと親切に間違いなく診察したからどうか、それだけを裁けばええのだす。なんでそれを裁かんのです!証拠や根拠ばかりを言うて、こんな裁き方は間違うてます!」

「うちの人を返して、生き返らせて。子供の父親を返して!」
振り絞るような声で叫び、財前の胸に掴み掛かった。


p374
「里見君、君の友情のない証言で対質にまで持ち込まれ、一時は苦境にたたされたが、これでやっと僕に誤診の事実がなかったことが明らかになったよ」
勝ち誇るように言うと、
「財前君、こういう勝ち方をして、法律的責任は逃れられても、医者としての良心、倫理に問うてみて、君は恥ずかしいとは思わないのか」
里見は財前を憐れむように言った。
「じゃあ、どういう勝ち方をしろというのかね」、ぎらりと精悍な眼を光らせ、開き直るように言った。
「君は医者である自分に対して、もっと厳しくあるべきだ。医療は人間の祈りだとさえ言われている。神を畏れ、神に祈るような敬虔な心で、患者の命を尊重する心がなくては、医療に携わることは許されないはずだ」
里見は静かな揺るがぬ声で言った。


p376
一体、何をしたというのだろうか?
初診した患者の死の経緯について正しい証言をした者が大学を追われ、事実患者の診療に誤りを犯した者が、大学の名誉と権威を守るという美名のもと、大学のあらゆる力を結集してその誤審を否定し、法律的責任を逃れて大学に留まる。
何という不条理であろうか。

しかし、これが現代の白い巨塔なんだ。
外見は学究的で進歩的に見えながら、その厚い強固な壁の内側は、封建的な人間関係と特殊な組織によって築かれ、里見一人がどう真実を訴えようとも、微動だにしない非情な世界が生きている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年1月30日
読了日 : 2021年1月30日
本棚登録日 : 2021年1月30日

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