プラチナタウン (祥伝社文庫)

著者 :
  • 祥伝社 (2011年7月25日発売)
3.78
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感想 : 143
5

【感想】
続編の「和僑」から先に読んだので、まぁまぁネタバレな箇所も多かったが、それを差し引いてもとても面白い1冊だった。
やはり読んでいて感じるのは商社マンのビジネスセンスと目敏さかな。
現実的な目線を損なわずに、しっかりとビジネスチャンスを活かすノウハウと嗅覚を持っており、それを実行に移して実現させる能力は読んでいて痛快だった。
同じビジネスマンとして、やはり商社マンは能力が違うのかも・・・・

結末が分かっていたから少し興ざめな箇所もあったが、出てくる登場人物のキャラもとても立っていて、台詞ひとつ取っても本当に面白い。
なんてゆうか、登場人物みんな頭が良すぎる。笑
月並みな感想だが、自分もこれくらい嗅覚・商才・そしてセンスに溢れた人間になりたいものだ。


【あらすじ】
出世街道を外された総合商社部長の山崎鉄郎は、やけ酒を呷り泥酔。
気がついた時には厖大な負債を抱えた故郷緑原町の町長を引き受けることに。
だが、就任してわかったことは、想像以上にひどい実情だった。
私腹を肥やそうとする町議会のドンや、田舎ゆえの非常識。
そんな困難に挫けず鉄郎が採った財政再建の道は、老人向けテーマパークタウンの誘致だったのだが…。


【引用】
p5
・最初の一文
「ラーメンからミサイルまで」とは総合商社のビジネスを表す時に用いられる表現としては、随分手垢がついたものだが、売れるものなら人体・臓器以外はなんでも売る。
それが総合商社だ。


p38
総合商社が世界中に支社、あるいは駐在員事務所を置いているのは、単に新しい商売を拾うためばかりではない。
生の情報をいち早く掴む。それが利益を上げることに直結しているからだ。

そう、情報。
メーカーが力をつけた今の時代においても、商社があらゆるビジネスに介在していられるのは、世界中に張り巡らせた情報ネットワークがあるからに他ならない。


p84
「へえ、そうかな。ゼロからのスタートなんてもんは、企業にだってありゃしねえぜ。」
「どういう意味だ?」
私は牛島が何を言わんとしているのか、理由が分からずに問い返した。

「入社して給料もらい始めた時点から、俺たちゃ皆会社に借金抱えてんだよ。その金利は決して安くはない。その借金と金利を支払って余りある稼ぎを生み出したやつが上への階段を昇れる。それがサラリーマンってもんだろ。」
牛島は、そこで私をじろりと見ると、
「山崎、受けろよその話。俺たちゃ世界を相手に切った張ったの商売をしてきたんだ。そこで培ったノウハウを生かせば、赤字に転じた地方の町の財政を建て直すくらいのプランは必ず思いつく。地べたを這いつくばって商売を拾ってくんのが商社マンだろ。儲けを産み出すのが俺たちの仕事だろ。赤字でどうしようもない会社を再生させた例なんて、なんぼでもあるじゃねえか。田舎に籠って小さな町しか見てねえやつには、到底思いつかねえネタがきっとあるはずだ。」

「これは商売なんだ。借金を返せるだけの商売をお前が生み出しゃいいんだよ」


p168
・オリンピックについて
国家レベルの事業でも、規模が大きくなればなるほど、そこから生じる利権という甘い汁を吸おうとする人間が出てくるものだ。
オリンピックなんて、その典型的な例と言えるだろう。

誘致のために何十億という公金を使い、派手なプレゼンを繰り広げた上に視察に訪れたIOCの理事を接待する。
確かに開催地になれば経済的波及効果は計り知れないものがある。しかし問題はその後だ。
分不相応な施設をぶっ建てたら最後、今度はその維持費に莫大な金が食われていく。数週間の開催期間が終われば、街はまた元の静けさを取り戻す。

結果潤うのは、立派な施設の建設を請け負った建設業者と、その裏で蠢くウジ虫のような政治家とは名ばかりの斡旋屋ばかり。
地元の経済にしたって一時は潤うだろうが、これまた祭りが終われば元に戻るだけ。
いや、一旦甘い蜜の味を知った分ら反動は大きいら、

真の公共事業とは、一時のカンフル剤であってはならない。
恒久的に利益を生み、雇用を確保するものでなければならない。
だからこそ、終身型老人ホームの建設は何が何でも成功させなければならない。

カマタケ、おまえにはびた一文、銭はやらねえ。


p229
「リバースモーゲージってのはさ、いま住んでいる住宅を担保にして、毎月一定額の融資を受けるシステムのことを言うんだ。」
牛島は言った。
「早い話は、持ち家を借金のカタにするってわけだ。ただし、大抵の場合借りる方は、金を返済する必要は全くねえ。」

「問題は、このシステムを利用できるのは、大抵の場合ローンが終わった持ち家、れも一戸建に限られる。マンションはまずダメと見ていい。」
「マンションを買う際、大抵が目一杯の長期ローンを組んでいるもんだ。最長で35年、それだけの時間が経ちゃ建物の価値はゼロだ。その点、戸建は違う。こっちも上物こ価値は15年もすりゃあゼロになっちまうが、土地は別だ。更地にすりゃすぐに買い手は現れる。つまり、リバースモーゲージによって融資される金額は土地代、査定価格のよくて7割ってとこだ。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 名作(再読の価値がある本)
感想投稿日 : 2019年4月30日
読了日 : 2019年4月30日
本棚登録日 : 2019年4月30日

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