雨ン中の、らくだ (新潮文庫 た 100-1)

著者 :
  • 新潮社 (2012年5月28日発売)
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感想 : 23
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久々に一気読み。談志一門は師匠を筆頭に能筆揃い。昨今では談春の「赤めだか」がベストセラーになった。ちなみに談春と本書の作者の志らくは兄弟弟子の関係にあたる。談春が兄弟子でありながら、真打へは志らくが先に昇進してしまう。談春と志らく、ライバルであり一番の理解者である。本書を読むと「赤めだか」の意趣返しで書かれた本であることが分かる。どちらかでもいい。是非読み比べて欲しい。年齢も落語にかける情熱も変わらない弟子同士でありながら、師匠・談志の描かれ方はこうも違うものか。赤めだかは「私(=談春)と談志」というよりは、若手弟子たちの「落語家青春物語」の印象が強い。方や「雨ん中の、らくだ」は、談志が追求し続けた落語の真髄の考察を開陳し、自身の落語観へと拡げていく。志らくは現在48歳。入門して10年で真打昇進を果たすも、決して順風満帆に進んだものではない。落語の面白さを知り、金原亭馬生に憧れ、落語を覚え、挫折し、天狗になり、苦悩し、時には落語を甞め、落語に飽き、しかし落語のスゴさに驚愕する有為転変の落語人生のあますことなく語っている。「門下の弟子の中ではセンスは一番」と談志が認めた志らくは、談志のセンスに近づくために落語以外のものでも必死に喰らいついていく。映画に昭和歌謡に人物に。師匠と同じ風景を見るために、その貪欲さには刮目するばかりだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 芸能
感想投稿日 : 2012年6月8日
読了日 : 2012年6月8日
本棚登録日 : 2012年6月8日

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