ドグラ・マグラ(下) (角川文庫 緑 366-4)

著者 :
  • KADOKAWA (1976年10月13日発売)
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感想 : 557
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思い返せば、多くの本好きに漏れず、たしか中学生か高校生のころに角川文庫の上下巻を手にして、幻惑された。
凄まじいことだけはわかるが迷宮入り。それは迷宮のままにして。
高校生か大学生のころに松本俊夫の映画を見ていた。
それから10年近くのうちに、散発的に夢野久作とは出会ったり別れたりを繰り返し。
たとえばアンソロジー。
たとえば映画。小嶺麗奈、浅野忠信、京野ことみ、黒谷友香が出演した石井聰亙監督「ユメノ銀河」モノクロ。SFっぽく翻案したものもあるとか。
たとえば漫画。電脳マヴォ佐藤菜生「何でも無い」のウェブ漫画、佐藤大「脳Rギュル」、ドグラ・マグラについてはイースト・プレスの「まんがで読破」シリーズや、ドリヤス工房の「ドリヤス工場の有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。」とか。
一番は実はラジオドラマ。例としては「死後の恋」「悪魔祈祷書」「何でも無い」「少女地獄 冗談に殺す」「少女地獄 殺人リレー」「瓶詰の地獄」などから都度都度衝撃を受けては遡って原作を漁ったり。
と、実は十年以上二十年以下、ずっと夢野久作には触れ続けていた。
ところ、いま読み返してみて驚く。
「しっかり血肉化されている!」

ざっくりあらすじを書けば、
(1)めざめ、若林に導かれて(2-5)読み、(6)気づくと正木がいて語り、考え、また眠る。それだけ。
そこそこあらすじを書けば、
(1)めざめ、若林に導かれて読むのは、
(2)「キチガイ地獄外道祭文ー一名、狂人の暗黒時代ー」
(3)「地球表面は狂人の一大解放治療場」新聞記事。正木談。
(3’)「絶対探偵小説 脳髄は物を考えるところに非ず=正木博士の学位論文内容=」記者による正木の聞き書き。アンポンタン・ポカン君が演説で代弁。
(4)「胎児の夢」
(5)「空前絶後の大遺言書―対象15年10月19日夜ーキチガイ博士手記」吾輩は遺書「天然色、浮出し、発声映画」(正木の見聞きしたものを映画として娯楽的に提示)
(5’)画面上正木博士喋る。「法医学教室屍体解剖室大正15年4月26日」(下巻へ)「正木と若林の会見」
(5’’)「心理遺伝付録…各種実例」「その一 呉一郎の発作顛末ーW氏の手記に拠るー 第一回の発作」「第一回の発作」「第一参考 呉一郎の談話」「第二参考 呉一郎伯母八代子の談話」「第三参考 村松マツ子女史談」「右に関するW氏の意見摘要」「右に関する精神科学的観察」(正木の筆)
(5’’)「第二回の発作」「第一参考 戸倉仙五郎の談話」「第二参考 青黛山如月寺縁起」「第三参考 野見山法倫氏談話」「第四参考 呉八代子の談話概要」
(5続き)「呉一郎の精神鑑定」「解放治療場に呉一郎が現れた最初の日(大正15年7月撮影)」「その2か月後(大正9年撮影)」「その1か月後」
(6つまり1の続き)「どうだ……読んでしまったか」正木が話す正木VS若林。いつしか正木VS私の構図に。
(6’)私の反逆を受けて正木は退室。私は外を歩いて帰ってくる。
詳しいあらすじは、読書メモに。

(1)から(5)まではだいたい憶えていたのだ。
連想されるのは、
たとえば中井英夫の諸作や埴谷雄高の「死霊」、北杜夫「楡家の人びと」、色川武大『狂人日記』などの小説たち、
たとえば「セッション9」、スコセッシ「シャッターアイランド」、ギリアム「12モンキーズ」、イーストウッド「チェンジリング」、フォアマン「カッコーの巣の上で」、サドを題材にした「クイルズ」、といった精神病院を舞台にした数々の映画、
思想においてはフーコー「監獄の誕生」や「狂気の歴史」、三木成夫「胎児の世界」など、など……。
「何を見ても何かを思い出す」を信条としているとはいえ、ここまで連想されるとは。
さすが集大成、作者の生きた20世紀前半を飛び越えて、古今東西あらゆる芸術のハブになりうる作品なのだ。

「どうだ……読んでしまったか」という声が、不意に私の耳元で起った……と思ううちに室の中を……ア――ン……と反響して消え失せた。
から始まる(6)以降。
細部を憶えていないにせよ「血肉化しているので記憶しているかどうかは問題ない」段階で、すでにあった。
つまりは迷宮が私に実装されていたのだ。
迷宮は何度も迷宮として楽しみたい、から、私は誰か、真犯人は誰か、までを無理に断言しない。
いつまでも先延ばししながら夢野久作の文体を享楽していたいから。
(ここで連想したのは黒沢清監督「キュア」。)

いずれまとめて夢野久作を。

詳述はしないが連想する。
「カリガリ博士」からの影響。
ドストエフスキーの長広舌が生み出すカーニバル空間(バフチン)による時間の伸び縮み、
夏目漱石「こころ」の長ーい遺書。
人、場所、物、にズームアップすると面白そう。
当時の精神医学や精神分析が最新潮流だったと。
宮沢賢治の例もあることだし、文学と、精神医学および精神分析に始まる無意識の需要、さらには精神薬学がいかに精神分析や無意識を駆逐していったかといった精神医学史には、今後目線を注いでおきたいところ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学 日本 小説 /ミステリ
感想投稿日 : 2018年3月5日
読了日 : 2014年1月1日
本棚登録日 : 2014年1月1日

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