日本文学100年の名作 第8巻 1984-1993 薄情くじら (新潮文庫)

制作 : 池内紀  松田哲夫  川本三郎 
  • 新潮社 (2015年3月28日発売)
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感想 : 9
3

深沢七郎『極楽まくらおとし図』A
「不要になったものは山の彼方に捨ててくる」「徹底して理性的なリアリストだった」と解説にあり、膝を打つ。
「楢山節考」にも通じるが、庶民の懐に入り込んで描きながらもどうしようもなく透徹した眼差し。
深沢の魅力がひとことで言い表された。

佐藤泰志『美しい夏』A-
「ここのみにて光かがやく」の原作者。自殺者。
村上春樹の影に云々という紹介を読んだことがあるが、初めて触れた。
言いようのない苛立ち。中上の書いた人物が思い出された。

高井有一『半日の放浪』B-
これは個人的な感想だけど、いまひとつ伝わらなかった。

田辺聖子『薄情くじら』B+
ケチ臭くなり味覚も復古調になったオジサン。
唐突にもたらされた、父が……という挿話に、急に視界が開けたような。
なかなか面白い。

隆慶一郎『慶安御前試合』B-
罠の張り合い、肚の探り合い。
「無限の住人」の絵柄で思い浮かべることでケレンミたっぷりに。

宮本輝『力道山の弟』B
これは再読。
人と人が登場すれば自然と睦み合う。
ただの動物……かと思いきや、語り手の父の行動から心情が察せられ、ああこれが人間だ、と。
純文学の手本。

尾辻克彦『出口』A
これは酷い。笑
犬でも馬でもどっちでもええわ。

開高健『掌のなかの海』B-
これも申し訳ない。私の未熟さゆえわからず。
ウイスキーの飲み方など知らないし、その飲み方ひとつへのこだわりをかっこよく感じる人生観にも縁がない。
つまりは開高が苦手なのだ。

山田詠美『ひよこの眼』A-
山田詠美は高校の頃に「蝶々の纏足」に強烈に共感していたが、近年の文芸誌に載る軽薄な文体や軽薄な選評に辟易していた。
この作品はちょうどその中間にある。
しかしところどころワンフレーズで殺された。
「好きな男には、呑気な幸せをさずけたいと願う程に大人になっていた」
「吐く息が白くなって行くってことは、体の中があったかいってことだもんな」
「あの人は、私が初めて出会った、人生に対して礼儀正しい人だったのに」

中島らも『白いメリーさん』B+
間違いない。
いま読めば「呪怨2」が似ている。

阿川弘之『鮨』C
こういう小説の跋扈が一番いやだ。
説教くさいじじいは早く消えろ。

大城立裕『夏草』A
戦場小説はあまり好きじゃない。
が、これは戦場を越えて、もっと広い。
成り行きで高まった性欲。しかし成り行きはすでに必然だった。
成り行きで「手榴弾を妻の乳房に押し当てていた」、が、その後の求め合いと改心は必然だ。

宮部みゆき『神無月』B
キューブリックの映画みたい。

北村薫『ものがたり』B-
少女が仮託するなら時代劇でなくトレンディドラマなんじゃ……と素朴な疑問。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学 /日本海外 アンソロジー
感想投稿日 : 2015年4月4日
読了日 : 2015年4月4日
本棚登録日 : 2015年3月30日

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