ハウルの動く城 [DVD]

監督 : 宮崎駿 
  • ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント (2012年3月10日発売)
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感想 : 822
5

製作記によれば、だいたい興行で稼げる夏に公開できなかった。駿としては初めての公開延期だったんだとか。
11月20日に公開され、夏ほど稼げるかと危ぶまれたが、かなりいい部類だったんだとか。
そう。大学2年生の私は、友人Iと、Iが狙うMさんと、そして私が恋慕するXさんと、いわゆるダブルデートで劇場に行ったのだ。
男、女、男、女、と並び、私はポップコーンをXさんに差し出しながら鑑賞。
その夜はIの部屋で鍋を囲んだ。(だから冬!)
翌日Xさんからは避けられた……という。嗚呼くだらない回想記。
回想記ついでに。
初めて女性と行った映画は、複数デートというか男3女1で行った「名探偵コナン」のどれか。
「ハウル」を経て、3度目女性と、そして初めてマンツーマンで行ったのは「電車男」だった。
今でこそデートムービーという文化を軽蔑しているが、十数年前はそうではなかったのだ、と記憶の蓋が開いたので、垂れ流してみた。

いまこうして駿総浚いをして思うに、いわゆるまとまった駿印は「紅の豚」まで。
「もののけ姫」以降、ジブリ・ブランドがあるから愚民は見に行って、よくわからんけどよかったねーという茫漠とした感想を抱くファミリーやカップルを連発。
駿のいわゆる「子供のため」という大義名分は、いわば滑っている。
その中に「ハウル」も位置し、「よくわからんけど面白かったねー(でもすっきりしないねー)」という感想を、大学生の私も抱いていた。
いまもそう。だが、当時ほど恋愛に頭ン中イカれていない今だからこそ、いろいろ見えた気はする。

・何よりも城の清新さ! 絵と動きの力。これファンタジーだけでなくスチームパンクの系譜なのだ。「千と千尋」で湯屋「油屋」を温泉ではなくボイラー式にしたのと同じく、やはり金属と蒸気の系譜。
・なんでも当初のタイトルは、宮崎考案「ハウルの蠢(うご)く城」なのだとか。「もののけ姫」→「アシタカせっき」と同じく、毎回読み替えてみよう。というか、「ハウルの動く城」→「ハウルの蠢(うごめ)く城」と読み替えてみたい。「ナウシカ」の王蟲の動きの延長上・技術的進歩にあると、思うために。
・老婆ふたりが階段を昇る、という場面は初鑑賞時から印象深い。ハイライト。今回見てみて、たとえば「ラピュタ」で親方がドーラ息子と腹を殴り合うほどのコミカルな演技や音楽がないにも係わらず、どこかしらコミカルというか愛すべきシーンとしてとらえていたと気づいた。むしろ抑制された演出に、自ら乗りに行く視聴者のリテラシー?
・中盤以降、疑似家族、老人介護、というサブテーマが浮かんでくる。
・と同時に、思った以上に恋愛を描くんだな! と鼻息を荒くしてしまった。ソフィーの年齢が行きつ戻りつするときに、こちらもソワソワして、応援したりまだるっこしく思ったり、ハウルがその呪いに気づいているということに気づいていないソフィー、に、やきもきしたり。
・ジブリヒロイン総選挙を開催したら、ひょっとしたら選外になるかもしれない。それだけポスターやビジュアルイメージが強い。が、本作鑑賞後の熱気のままに書いてしまうと、ソフィー最っ高に健気で懸命なヒロインだ。本来は18歳だが、呪いにより90歳に変えられて、しかし精神の在り方はそもそも90歳だったので呪われた外見が似つかわしく思えるが、無意識下では18歳が蠢いている、ハウルに憧れるだけではなく、守りに向かう!と決めたのは18歳本来の少女の健気さであり、かつ母親っぽい……ナウシカっぽい……ソフィーが義母によっては与えられなかったしなやかな包容力……それも、私の中でお眠りなさい式ではない、ストーリーの展開上はヤケクソにも見える、熱さ。
・恋で読解力の鈍っていた当時の私へ書いて送るなら、以下のこと。カルシファーはただのマスコットではないぞ! 一見クールを装うハウルの裏表なのだ! マスコットはむしろ、マルクル、カブ、ヒン。ただしカブやヒンの存在が、本作の軸をわかりづらいものにしている、というか、めくらましのギミックになっている、というか。思えばカブが人間に戻って、私は隣国の王子なんです云々、には唖然としたものだ。ご都合主義という言葉を知ったばかりだったから、その言葉で断罪してしまっていたが、駿はそう底の浅い話は作らない(?ポニョは?)。前景化しない、隣の魔法王国、VS、科学技術が本流だが魔法にも頼っている王国、の対立、その中でハウルやサルマンや荒れ地の魔女がや奔走している、という舞台を、強く意識せよ!
・くらいかなあ。今回見直してみて、「いい印象はあるけどよくわからない」から「わかってきたら相当いい」へと変化した。

追記
・舞台となる場所の豊富さよ。ドアの回転式スイッチによる、4×2。室内と外側。窓の存在も大きい。
・豊富さといえば、キャラクターも、城も、ことごとく変身する。ここまでメタモルフォーゼ、行ったり来たりを繰り返す作品は、なかなかないのでは。だいたいアニメって服装も固定しがちなくらいだし。リッチ。
・今回の諸星大二郎。荒れ地の魔女が輿から覗くとき……「栞と紙魚子」のクトルーちゃんのお母さん。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: アニメ
感想投稿日 : 2020年8月2日
読了日 : 2020年8月2日
本棚登録日 : 2020年8月2日

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