それに追いかけられる恐怖を、セックスで相手に感染させる。
「汚れた血」方式、「リング」方式、不幸の手紙方式、さらには桃鉄の貧乏神方式、いろいろ表現はあると思う。
町山さんのラジオを予め聞いていたので、エイズのメタファーではないとはわかっていたが、
ここまでストレートに「死の恐怖」を持ってこられるとは。
むしろテーマは明快だった。
素敵なのは映画らしい、絵づくり、音づくり。
際立つある種の叙情。
たとえば惚れた男と初カーセックス。
デトロイトは自動車産業が失敗してからは大量流出により廃墟が多いらしく、場所はそんな廃工場? のそば。
事後、後部座席にうつ伏せになり、外の草で手遊びをしながら、ずっと素敵な彼と車でデートするのに憧れていたの、と甘い余韻。
と思いきや男がいきなりクロロフォルムを!
だらっと落とした手が草に落ちるカット。
また、街並み……デヴィッド・リンチの町はぴっかぴかだが、
本作の町は古着のように色あせて、乾いている。
自宅用プールや海や大型プールなど水の場面も多いが、少しも湿っぽくない。
シンメトリー、色味、静止カメラ、耳障りとも甘美とも言える音響、どれをとっても安っぽくない。
個人的ホラー上級の「シャイニング」や「スペイン一家監禁事件」だけではなく、たとえばヴェンダース「パリ、テキサス」すら連想させるほどの美しさだった。
一番安っぽくなりそうな「それ」の造形も、ちっとも凝っていないのにじんわり怖い。
時々に応じて別人に成り代わっているというのもアイデア。
おばさんかと思いきや巨人!
おじさんかと思いきや「呪怨」の敏男くん!
そして「それ」の深みある設定としては……親。
「それ」は捕まえた相手を激しくレイプ殺害する。
ちょうど「ハザール事典」を読んで、親が死に子が死にという単線的な生命観ではない、子ができることで親は子の死を背負うという逆流型の生命観に影響されたこともあり、
親にレイプされるという設定も実に恐ろしくかんじられた。
また、ドスト「白痴」(実際は「死の家の記録」にも見える、ドスト自身の死刑宣告と処刑場の体験)、エリオット(蘇りしわれはラザロ)、
それにしてもあそこまで恐怖につき合わされた幼馴染のポール、
よくチンコ勃ったな。
男らしくないとずっと思われていたが、一番オトコじゃないか。
@@@@@
ネットで論評を漁ってみて。
なるほど「卒業」か!
ルートエイトマイルを超えちゃいけないという決まりからの逸脱、
プールに浮かんで流される、あるいは潜って羊水に回帰する、
ふたり並んで真顔で歩く、
まさに!
そして「それ」が死の恐怖である理由のひとつに、「それ」の見た目が「目撃した死の記憶」なのではという仮説も、また納得。
@@@@@ 以下監督インタビューの一部。
「セックスや愛は、死への恐怖にのみ込まれないための方法だ。セックスや愛を通じて、人生には限りがあるという現実に折り合いをつけられる。映画の登場人物はおそらくそれに気付き始めたところだし、すべての人がその事実の中で生きている」
- 感想投稿日 : 2017年1月29日
- 読了日 : 2017年1月29日
- 本棚登録日 : 2017年1月29日
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