ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (2015年6月18日発売)
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感想 : 85
4

不謹慎ですが、「悪い男たちがゼロから成り上がっていく、悪漢ドラマのような面白さ」がありました。
実録やくざ映画とか、ギャング物とか、犯罪者物みたいな。
むちゃくちゃな分だけある種、スリル満点。悪だくみ。
「スター・ウォーズ」のエピソード1~3も、悪役パルパティーンが議会制民主主義を滅ぼすまでのお話でしたね。
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講談社現代新書「ヒトラーとナチ・ドイツ」石田 勇治【2015】
以前から、世界史に不案内なこともあり、ヒトラーとナチスについての入門的通史を読んでみたいなあ、と良き本を探していました。
いろいろ見て、これは良いのでは、と。
歴史学者の人が書いていますが、当然これは専門書ではなく一般向け。
厳密には詳細な通史というよりも。表紙のカバーに書いてあったんですが、「どうしてナチス政権が、民主的なはずだった国に成立しえたのか?」という問いかけが主な狙いになっています。面白かったです。
狙いがそういうことなので、「第二次世界大戦の戦争歴史」ではなくて、「ナチス政権が成立するまでのワケ」がほとんどです。
つまり、成立しちゃってから滅亡するまでの軍事的経緯は省かれています。
戦争についての詳しいことが知りたかったわけではないので、好都合でした。
読後の印象で言うと、
●国民にぼんやりした不満が溜まっていた。
 なぜなら、第1次世界大戦の戦後処理で、無茶な賠償金を割り当てられ、経済がいまいちだったから。
 当時の民主的な政権は、経済政策で目に見える効果を挙げれていなかった。失業者が多かった。
 (ヒトラーも、まあ大まかに言うと失業者だった)
●資本家、権力者に、不安があった。
 時代は共産主義台頭の時代。ロシアでは革命が起こって、金持ちが財産を没収されていた。
 金持ちからすると、それだけはリアルに恐怖だった。避けたかった。
 ヒトラーは「共産主義とユダヤ人との対決」という姿勢を明確にしていた。
●「大統領」と「首相」がいて、ヒンデンブルグ大統領の権限が強かった。
 もともとこの人は軍人として国民的英雄で、議会制民主主義への愛情は無かった。
 この人が最終的にヒトラーを首相に任命し、全権を与え、そして死んでしまった。
●大衆社会とでも言うべきものが、少なくとも今と比較すると未熟だった。メディアも含めて。
 ヒトラーは大衆社会に受け入れられやすい過激で分かりやすい論法が上手かった。
 (これは、「既得権益者を悪者に仕立てて、常に攻撃者の側に回る」ということとか、
 「雑でも矛盾があってもちょっと過激な物言いをする」ということとか、だと思う。つまりは、橋本徹さんのような存在)
というようなことなのです。
そして、なんだかグサッと来たのが、ヒトラー政権になってからの記述で。
議会を通さずに法律を作る権限を持っちゃうんですね。もうこの段階で、議会の意味はなくなります。
そうして、色んな理由で「言論の自由」とか「職業の自由」とか、まあ基本的な人権が制限されて行きます。
(※失業率を下げるために、女性の就職を禁止した。女性を「失業者」の分母から削除したんですね。)
そんなときに、
●まあ、こんなことは長くは続かないし、そんなに酷いことにはならないだろう、となんとなくみんな、思った。
という記述。
(もちろん、学者さんですから、推測ではなくて、当時の色んな人の記録や文章から掘り出している考察です)
これ、グサッと来ましたね。大丈夫でしょうかね。2015年現在の日本の僕たち。
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そして、「選挙と民意」という危うさもありますね。
ナチスだって一応、選挙で勝ったから政権取ったんです。
でも、「勝った」と言っても、圧倒的民意をあらゆる政策について取った訳じゃないんです。
2015年の日本の政権もそうですが、詳細に検証していくと、実は総国民の圧倒的多数の票を取った訳じゃないんです。
(選挙制度の仕掛の問題もあります)
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それからぼんやり印象に残ったのは、とっても「ヤンキーっぽい」ということですね。
男性っぽいマッチョ不良みたいな価値観っていうか。
(そして、それはそれで、とっても2015年現在の日本の政権とも類似が…)
ちゃんと落ち着いて考えたら、言ってることやってること、無茶苦茶なんです(笑)。
そして、「ヤンキーっぽい」と思うのが、仕事=政権運営をする中で、役割分担とか権限とか、もう、ぐっちゃぐちゃなんですね。
結局、親分独裁、気分しだい。取り巻き天国。気分しだいだから一貫性がなくて、実は威勢がいいけど場当たり的。
むしろ、計画的で冷静であること、冷めていることを、批判して非難して突き進むんですね。
だから、最晩年、敗北の中でヒトラー本人が「ナチス党も政権も、何がどうなっているのかぐちゃぐちゃで分からん」とご自分で言ったそうです。
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「ユダヤ人」について。
これはちょっと、もっとコレについての判りやすい本を読みたいです。
というのは、ヒトラーがユダヤ人を迫害していっぱい殺したのは知っていますが、
「なんで?」ということですね。
そして、ヒトラー以前にも綿々と、「ユダヤ人への差別、蔑視」というのは、「ベニスの商人」じゃないけど存在したわけです。
キリスト教と権力、ユダの裏切り、とかそういうのはぼんやり判りますけど、ちょっとハッキリしない。そこのところの「気分」が、分からないんですね。
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「われわれは、わが民族は、わが国家は、他の民族や国家よりも歴史的にも倫理的にも正しい」
と、言うんですね。
(でもその根拠はあいまいと言うか、公平と冷静を欠くというか。ほとんど愚連隊不良の我田引水な理由だったりします)
「だから我々はもっと恵まれているべきで、我々は不当に屈辱を受けているのだ。あいつらは不当に恵まれているのだ。もともと悪い奴らなんだ」
と、言うんですね。
(これは、失業者が多かったり経済が行き詰っていると、誰にでもちょっと耳に心地いい魔力があります)
「我々が油断していると、あいつらにヤられてしまう。議論している場合じゃない、行動だ。その為には行動力、決定力が必要だ。それを俺にくれ」
と、言うんですね。
(アクション映画のヒーローなら、それが正論ですね。だから、見方によってはカッコよく映ります)
「それに反発するひと、冷めてる奴らは、愛国心が無い。非国民だ。そんな奴らはちょこっと迫害されても自業自得だ。そんな奴らより、俺ら愛国者が恵まれるべきだ」
と言うことになるんですね。
(どこでその線引きをするのか、そんな線引きをする能力や資格を持っていいのか、というような議論は、ヤンキー的に無視されます)
いやあ、まったくもって、「古い話」ではないですよね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 電子書籍
感想投稿日 : 2015年8月19日
読了日 : 2015年8月19日
本棚登録日 : 2015年8月19日

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