顔 FACE (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店 (2005年4月15日発売)
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2002年発表らしき、横山秀夫さんの警察ミステリー。
「64」などでおなじみの、架空の県「D県」の警察、D県警を舞台としたシリーズ。
ほんのちょろっとですが、「64」や「陰の季節」に出てきたキャラクター・二渡さんが出てくるのがファンにはご愛嬌。
また、この「顔」の主人公の女性警察官・平野さんは、「陰の季節」に出て活躍しています。

なんとなく、横山秀夫さんの小説が読みたくなって、ふっと買って、あっという間に読み終わりました。
いつも通り面白い。
でも...正直「陰の季節」「第三の時効」には太刀打ちできないかなあ、という印象。

以下備忘録。

連作短編です。婦人警察官・平野さんが全て主人公。

●「魔女狩り」
主人公は、広報の部署にいます。今映画などで話題の「64」の主人公がいた部署ですね。
記者対策、特ダネを漏らしている警察官を探す、「魔女狩り」。
オチは、女性記者に岡惚れした男性警察官が犯人。ただ、女性記者は、他社の男性記者にこれまた岡惚れしていて、そっちに特ダネを譲っていた、という。
「業界もの」の濃密さに、ついつい利害やモラルを踏みにじるヒトのサガみたいなのが描かれて、さすが表題作。


●「決別の春」
主人公は部署替え、今度は電話相談の相談員みたいな仕事。
連続放火事件が起こっていて、それ絡みで、とある女性と知り合う。
その女性は子供のころ、自分の叔父が放火して、自分の父を亡くしていた。
それから10年以上。成人した女性は、誰かが自分を狙っている、という...。
オチは複雑でドラマチック。
実は少女の頃の放火事件は。少女自身が犯人だった。
父は、母と叔父に暴力を振う男だった。
その理由は、叔父と母が愛し合っていたから。
暴力に憤った少女が放火して父を殺した。
それを知った叔父が、罪をかぶった。
少女の実父は、叔父なのかも知れない。
ちょっとドラマチック過ぎて、ややストロークが短い感じがして勿体なかったかな...。

●「疑惑のデッサン」
かつて主人公は、鑑識課で似顔絵を書く仕事をしていた。
本音はそこに戻りたい。
でもそこは今、後輩婦警が担当している。
なんだけど、その後輩婦警は、ぜんぜん絵が上手くない。
とある犯罪が起こった。目撃者がいて、似顔絵が描かれた。
それで犯人がつかまった。
なんだけど、下手なはずの交配婦警の似顔絵が、「あまりに似すぎている」疑惑。
オチは、その犯人と、後輩婦警が、男女関係があった、ということ。
全体的に、対犯罪や組織との軋轢の緊張感が薄くって、いまひとつか。

●「共犯者」
主人公は、捜査の現場勤務。
ローカルな県警で、銀行強盗の模擬訓練がある。
それなりに大きなイベントだが、当日、その裏で狙ったかのように本物の銀行強盗が。
模擬訓練を知っていた者の仕業だろう、と。
県警内で醜い調査が始まる。
オチは、数年前の模擬訓練で、びっくりして失禁した女子行員がいて、恥をかいて自殺してしまった。
その祖父が県警を銀行を恨んだ。
その祖父がラブホテルを経営して受付にいる。
そのラブホテルでその銀行の支店長が不倫していて、そこから情報を得た。
そして、チンピラとつるんで犯罪を犯した、という。
ちょっと強引な感じが。

●「心の銃口」
主人公は刑事部勤務。
仲の良い婦人警官がいる。その女性は射撃が上手い。
女性警官も拳銃を携帯できるように制度が変わる。
その矢先、その「射撃の上手い女性警官」が、悪者に拳銃を奪われる。
犯人は「女性だった」という。
同僚たちと捜査にかかる、主人公平野さん。
犯人を追いつめるが撃ち合いに。
相棒の中年男性刑事が、犯人の女性を撃ち殺した。

オチは。
犯人は警官マニアの女性。
以前から、D県警の悪い刑事から、密かに警察グッズを買ったりしていた。
その悪い刑事が、たまたま、主人公・平野さんと、この事件の捜査で相棒になった中年男性刑事。
それを隠して、中年男性刑事は捜査にあたる。
犯人知ってるから、すぐに探し当てた。
主人公・平野さんを助けるふりをして、口封じに撃ち殺した。
この構造に主人公が気づく。同時にD県警も気づいていて、中年男性刑事はつかまった。

この話も、けっこう力技な落ちなんですが、これはそこそこ長い中編で、ストロークが分厚くて楽しめました。
人物たちの、「男性社会でも葛藤」ということも含めて。

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総じて実は「魔女狩り」と「心の銃口」の2編を読んだらそれで良いかなって感想もありますが、
他の短編も、それなりに楽しくするすると読めてはしまいました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 電子書籍
感想投稿日 : 2016年5月14日
読了日 : 2016年5月14日
本棚登録日 : 2016年5月14日

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